知らないと損!法人と個人事業主、両方のメリットを理解して事業を成長させる完全ガイド

これから起業する方、あるいは事業が軌道に乗り「法人成り」を検討中の個人事業主の方へ。

事業形態の選択は、税金の負担、社会的信用、資金調達のしやすさなど、事業の成長を大きく左右する重要な決断です。

この記事では、法人と個人事業主のそれぞれのメリット・デメリットを、税金や経費、責任の範囲といった観点から徹底的に比較解説します。

結論として、どちらか一方が絶対的に優れているわけではなく、あなたの事業の売上規模や将来のビジョンによって最適な選択は異なります。

本記事を読めば、その判断基準が明確になり、所得800万円の壁や消費税の課税タイミングといった具体的な「法人化すべき最適な時期」まで理解できます。

後悔しない選択をするために、両方のメリットを最大限に活かす知識を身につけましょう。

はじめに 法人か個人事業主か 事業の成功を左右する重要な選択

これから新たに事業を立ち上げようと考えている方、あるいはすでに個人事業主として活動し、事業が順調に成長している方。

多くの方が一度は「法人と個人事業主、どちらの形態で事業を進めるべきか?」という大きな岐路に立つのではないでしょうか。

この選択は、単なる手続き上の違いではありません。

税金の負担額、社会的信用度、資金調達のしやすさ、そして万が一の時の責任の範囲まで、事業の未来を大きく左右する極めて重要な経営判断です。

「手続きが簡単そうだから個人事業主のままで」「周りが法人化しているから」といった漠然とした理由で決めてしまうと、本来得られたはずのメリットを逃し、後々「あの時こうしておけば…」と後悔する事態になりかねません。

例えば、売上が順調に伸びているにもかかわらず個人事業主のままでいると、所得税の負担が法人税を上回り、手元に残る資金が少なくなってしまうケースがあります。
一方で、まだ事業規模が小さい段階で法人化すると、赤字でも発生する税金や社会保険料の負担が重くのしかかる可能性もあります。

本記事では、そんな重要な選択を迫られているあなたのために、法人と個人事業主、それぞれのメリットとデメリットを多角的な視点から徹底的に比較・解説します。
さらに、事業の成長段階に応じて両方のメリットを最大限に活かす「法人成り」の最適なタイミングについても、具体的な判断基準を交えながら明らかにしていきます。

この記事を最後までお読みいただければ、ご自身の事業内容や将来のビジョンに最も適した事業形態が明確になり、自信を持って次の一歩を踏み出せるようになるでしょう。

あなたの事業を成功へと導くための羅針盤として、ぜひご活用ください。

一目でわかる 法人と個人事業主の基本的な違い

事業を始めるにあたり、まず最初に直面するのが「法人」としてスタートするか、「個人事業主」としてスタートするかという選択です。
この二つの形態は、単なる名称の違いだけでなく、事業の運営方法、税金、そして経営者が負うべき責任の範囲に至るまで、根本的な部分で大きく異なります。

どちらの形態が自身の事業にとって最適かを見極めるためには、それぞれの基本的な違いを正確に理解しておくことが不可欠です。

ここでは、事業の成功に向けた第一歩として、法人と個人事業主の核心的な違いを分かりやすく解説します。

事業の主体と責任の範囲

事業を行う上での「主体」が誰であり、万が一事業が負債を抱えた場合に誰がどこまで責任を負うのかは、法人と個人事業主を分ける最も重要なポイントです。

個人事業主の場合、事業の主体は経営者である「個人」そのものです。
そのため、事業で得た利益はすべて個人の所得となり、逆に事業で生じた負債や損害に対する責任もすべて個人が負うことになります。
これを「無限責任」と呼び、事業上の借入金などを返済できない場合、経営者個人の預貯金や不動産といった私的財産をすべて返済に充てなければなりません。

一方、法人を設立すると、法律上、経営者個人とは別人格である「法人」が事業の主体となります。
これにより、事業上の責任は原則として法人が負うことになります。

経営者(出資者)の責任は、自身が出資した金額の範囲内に限定されます。
これを「有限責任」と呼びます。たとえ会社が倒産しても、出資額以上の返済義務を個人的に負うことはありません。

ただし、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人となるケースが多く、その場合は実質的に無限責任に近い形になるため注意が必要です。

設立と廃業の手続き

事業のスタートとゴールである設立・廃業の手続きにおいても、両者には大きな違いがあります。

手続きの簡便さやコストは、事業開始時のハードルに直結する重要な要素です。

個人事業主は、手続きが非常にシンプルで、コストもほとんどかからないのが最大の魅力です。

基本的には、事業を開始した日から1ヶ月以内に管轄の税務署へ「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出するだけで事業を始めることができます。

特別な費用は一切かからず、思い立ったらすぐにでもスタートできる手軽さがあります。

対して法人は、設立手続きが複雑で、法律で定められた費用が発生します

株式会社を設立する場合、定款の作成と公証役場での認証(約5万円)、法務局への設立登記(登録免許税が最低15万円)などが必要となり、合計で最低でも20万円以上の実費がかかります。

合同会社の場合は定款認証が不要で登録免許税も最低6万円からと比較的安価ですが、それでも個人事業主と比べると手間とコストがかかることは間違いありません。

廃業時も同様で、個人事業主が「廃業届」を提出するだけで済むのに対し、法人は解散登記や清算手続きなど、時間と費用を要する複雑なプロセスを経る必要があります。

適用される税金の種類

事業で得た利益に対して課される税金の種類と計算方法も、法人と個人事業主で大きく異なります。
この税金の違いが、事業の利益がどの程度になったときに法人化(法人成り)を検討するかの大きな判断基準となります。

以下の表で、主な税金の違いを確認してみましょう。

項目個人事業主法人
利益(所得)にかかる主な税金所得税、住民税、個人事業税法人税、法人住民税、法人事業税
税率の仕組み所得が多くなるほど税率が高くなる「累進課税」(所得税は5%~45%)所得金額にかかわらず税率がほぼ一定(資本金や所得額により複数段階あり)
赤字の繰越青色申告の場合、最大3年間可能青色申告の場合、最大10年間可能
消費税原則、2年前の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になる原則、資本金1,000万円未満で設立した場合、最大2年間は免税事業者となる(インボイス制度により変更の可能性あり)

個人事業主の所得税は、所得が増えれば増えるほど税率が上がる累進課税が採用され、事業の利益が少ないうちは税負担が軽い傾向にあります。

一方、法人の法人税率は所得金額に関わらずほぼ一定です。
そのため、利益が一定額を超えると、個人事業主よりも法人のほうが税率上有利になるという逆転現象が起こります。
この分岐点が、法人化を検討する一つの目安となります。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

【徹底比較】法人が持つ5つの大きなメリット

事業を大きく成長させたい、あるいは長期的に安定した経営を目指すのであれば、法人化は非常に強力な選択肢となります。

個人事業主と比較して、法人は設立や運営に手間やコストがかかる一方で、それを上回る多くのメリットを享受できます。
特に「社会的信用」「節税効果」「リスク管理」の3つの観点から、その利点は際立ちます。

ここでは、法人が持つ5つの大きなメリットを具体的に掘り下げていきましょう。

メリット1 社会的信用度が高まり資金調達や取引で有利になる

法人化がもたらす最大のメリットの一つが、社会的信用の向上です。

個人事業主が「個人」として事業を行うのに対し、法人は法務局に登記された公的な存在です。

商号、本店所在地、役員、資本金といった情報が公開されるため、取引相手や金融機関にとって透明性が高く、信頼を得やすくなります。

この社会的信用の高さは、事業の様々な場面で有利に働きます。

  • 資金調達:金融機関からの融資審査において、法人は個人事業主よりも有利な条件を引き出しやすい傾向にあります。事業の継続性や財務状況の透明性が評価され、より高額な融資や多様な資金調達手段(例:社債発行、出資)の選択肢が生まれます。日本政策金融公庫などの公的融資でも、法人格であることがプラスに働くケースは少なくありません。
  • 取引先の拡大:大手企業の中には、コンプライアンスや与信管理の観点から、取引相手を法人のみに限定している場合があります。法人化することで、これまでアプローチできなかった大企業とのBtoB取引の道が開け、事業拡大の大きなチャンスにつながります。
  • 人材採用:求職者にとって、法人は社会保険の完備や福利厚生の充実といったイメージがあり、個人事業主よりも安定した組織と見なされがちです。これにより、優秀な人材の確保がしやすくなり、組織力の強化に繋がります。

メリット2 節税対策の選択肢が豊富

事業所得が一定額を超えると、法人化した方が税負担を軽減できる可能性が高まります。

個人事業主の所得税が所得に応じて税率が上がる「累進課税」(最大45%)であるのに対し、法人税は利益に対して概ね一定の税率が適用されるためです。
さらに、法人は個人事業主にはない多様な節税スキームを活用できます。

役員報酬による所得の分散

法人の場合、経営者自身や家族従業員への給与を「役員報酬」として会社の経費(損金)に計上できます。
これにより、会社の利益を圧縮し、法人税の課税対象額を減らすことが可能です。

さらに、役員報酬を受け取る経営者個人は「給与所得控除」という税制上の優遇を受けられます。
これは個人事業主の事業所得には適用されない控除であり、大きな節税メリットとなります。
家族を役員にして役員報酬を支払えば、世帯全体で所得を分散させ、一人当たりの所得税率を低く抑えることもできます。

経費として認められる範囲が広い

法人では、個人事業主よりも経費として認められる範囲が格段に広がります。
事業運営に直接関連する費用を経費計上できる点は共通ですが、法人は経営者個人の生活保障に関わる費用の一部も福利厚生として損金算入できる場合があります。

項目内容節税効果
生命保険料経営者を被保険者とする生命保険や医療保険の保険料を、一定の要件下で損金に算入できます。経営者の保障を確保しつつ、会社の利益を圧縮できます。
社宅制度会社名義で借りた物件を役員や従業員に貸し出すことで、家賃の一部を会社の経費(福利厚生費)にできます。個人が負担する家賃を大幅に軽減でき、実質的な手取り額を増やす効果があります。
出張手当(日当)出張旅費規程を整備することで、出張時の宿泊費や交通費とは別に、日当を支給できます。日当は会社の経費になり、受け取った役員・従業員側は非課税所得となります。
退職金経営者自身や家族従業員に対しても、退職金を支給できます。退職金は会社の損金となります。受け取る側は「退職所得控除」という非常に有利な税制優遇を受けられます。

最大10年間の欠損金繰越控除

事業で赤字(欠損金)が出た場合、その赤字を翌年度以降の黒字と相殺して法人税を減らすことができる制度を「欠損金の繰越控除」といいます。
法人の場合、この赤字を最大10年間(2018年4月1日以降に開始した事業年度の場合)繰り越すことが可能です。
一方、個人事業主(青色申告)の繰越期間は3年間です。
特に、設立初期に大きな設備投資が必要な事業や、景気変動の影響を受けやすい事業にとって、この10年という期間は経営の安定に大きく貢献します。

メリット3 経営者の責任が有限になる

事業上のリスク管理において、法人と個人事業主には決定的な違いがあります。
それは「責任の範囲」です。

  • 個人事業主(無限責任):事業で負った借入金や損害賠償などの債務は、事業用の資産だけでなく、経営者個人の預貯金や不動産など、すべての財産をもって返済する義務を負います。
  • 法人(有限責任):株式会社や合同会社の場合、経営者(出資者)は、会社が負った債務に対して、自身が出資した金額の範囲内でのみ責任を負うのが原則です。万が一事業が失敗しても、個人の財産まで差し押さえられるリスクを回避できます

この有限責任は、経営者が安心して事業に挑戦するための重要なセーフティネットとなります。

ただし、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人になるケースが多く、その場合は個人も返済義務を負うため注意が必要です。

メリット4 事業承継をスムーズに行える

事業を次世代に引き継ぐ「事業承継」を考える際にも、法人であることのメリットは大きいと言えます。

個人事業主の場合、事業主本人が亡くなると、事業用の資産はすべて相続財産となり、預金口座が凍結されたり、許認可の再取得が必要になったりと、事業の継続が困難になることがあります。

一方、法人の場合、事業の主体はあくまで「法人」そのものです。経営者が変わっても会社は存続します。

事業承継は、後継者へ会社の株式を譲渡または相続させることで完了します。
これにより、取引先との契約や従業員の雇用、事業に関する許認可などをスムーズに引き継ぐことができ、事業価値を損なうことなく次世代へバトンタッチすることが可能です。

メリット5 決算月を自由に設定できる

個人事業主の会計期間は、法律で1月1日から12月31日までと定められており、確定申告は翌年の2月16日から3月15日に行う必要があります。
これは税理士などの専門家にとっても繁忙期にあたります。

それに対し、法人は事業年度(決算月)を自由に設定できます。
これにより、以下のような戦略的なメリットが生まれます。

  • 繁忙期を避けた決算:自社の繁忙期を避けて決算月を設定することで、経営者が落ち着いて決算業務や事業計画の策定に取り組めます。
  • 資金繰りへの配慮:売上が最も大きくなる月の直後などを決算月に設定すれば、納税資金の準備がしやすくなります。
  • 消費税の免税期間の最適化:会社の設立日と決算月を工夫することで、消費税の免税事業者でいられる期間を最長2年近くまで延ばすことが可能です。これは設立時の大きなメリットとなります。
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【徹底比較】個人事業主が持つ4つのメリット

法人にはない身軽さと柔軟性が、個人事業主の最大の魅力です。
特に、事業をスモールスタートさせたい方や、まずは副業から始めたいと考えている方にとって、個人事業主という選択肢は多くのメリットをもたらします。

ここでは、法人と比較しながら、個人事業主が持つ4つの大きなメリットを具体的に解説します。

メリット1 開業・廃業の手続きが簡単でコストも低い

個人事業主の際立ったメリットは、事業の開始と終了に関わる手続きが非常にシンプルで、金銭的な負担がほとんどないことです。

思い立ったときにすぐ事業を始められ、状況に応じて柔軟に撤退できる手軽さは、特に初期段階の事業者にとって大きな安心材料となります。

開業する際は、所轄の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書(通称:開業届)」を1枚提出するだけで完了します。

法人のように、定款の作成・認証や法務局での設立登記といった複雑な手続きは一切不要です。
そのため、株式会社の設立で最低でも約20万円以上かかる登録免許税や定款認証手数料などの設立費用が、個人事業主の場合はゼロ円です。

また、事業をたたむ際の廃業手続きも同様に簡単です。

税務署に「廃業届」を提出すれば手続きは完了し、法人の解散・清算手続きのように、官報公告や株主総会の開催、清算登記といった時間と費用のかかるプロセスを踏む必要がありません。
この「始めやすさ」と「やめやすさ」は、変化の速い現代において事業リスクを低減させる重要な要素と言えるでしょう。

メリット2 事業の利益が少ないうちは税負担が軽い

事業から得られる利益(所得)がそれほど多くない段階では、法人よりも個人事業主の方が税金の負担を軽く抑えられる傾向にあります。
これは、適用される税金の仕組みの違いによるものです。

個人事業主に課される「所得税」は、所得金額が大きくなるにつれて税率も段階的に高くなる「累進課税」が採用されています。

一方、法人に課される「法人税」は、所得に対してほぼ一定の税率です。
そのため、所得が一定のライン(一般的に800万円前後が目安とされます)を超えるまでは、個人事業主の方が低い税率の恩恵を受けられます。

以下の表は、所得税の速算表(令和5年分以降)を簡略化したものです。

所得が低いほど税率も低いことがわかります。

課税される所得金額税率
195万円以下5%
195万円超 330万円以下10%
330万円超 695万円以下20%
695万円超 900万円以下23%

さらに、事業が赤字になった場合、個人事業主は所得税や住民税を納める必要がありません。
しかし、法人の場合はたとえ赤字であっても、資本金の額などに応じて算出される「法人住民税の均等割」が最低でも年間7万円程度発生します。

事業が軌道に乗るまでの期間、こうした固定コストがかからない点は大きなメリットです。

メリット3 事業運営の自由度が高く意思決定が速い

個人事業主は、事業の所有者と経営者が同一人物です。
そのため、事業に関するあらゆる意思決定を自分一人の判断で迅速に行うことができます

市場の変化や新たなビジネスチャンスに対して、株主総会や取締役会といったプロセスを経ることなく、即座に対応できる機動力の高さが強みです。

また、事業で得た利益の使い道も自由です。法人の場合、会社の利益はあくまで会社のものであり、経営者が個人的に使うためには役員報酬や配当といった形式的な手続きを踏む必要があります。

一方、個人事業主は事業用の資金と個人の生活費を明確に経理上で分ける必要はありますが、事業で得た利益はすべて事業主個人のものとして、自由に処分することが可能です。

事業内容の変更や追加、オフィスの移転など、事業運営に関わる様々な変更を、誰かの承認を得ることなく、定款変更などの手続きも不要で柔軟に行える点も、個人事業主ならではの魅力です。

メリット4 会計処理や税務申告が比較的シンプル

法人の会計や税務申告は非常に複雑で、専門家である税理士に依頼するのが一般的ですが、個人事業主の場合は比較的シンプルです。

個人事業主の確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。白色申告は簡易な帳簿付けで済みますが、節税メリットがほとんどありません。

一方、青色申告は複式簿記での記帳が必要ですが、最大65万円の特別控除や赤字の3年間繰越など、大きな節税効果があります。

一見難しそうに聞こえる複式簿記も、近年は安価で高機能なクラウド会計ソフトが普及しており、簿記の専門知識がなくても効率的に帳簿作成から確定申告まで行えるようになっています。

税務申告においても、法人が法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税など複数の申告書を作成し、税務署や都道府県、市町村へそれぞれ提出する必要があるのに対し、個人事業主の申告は基本的に税務署への確定申告で完結します。

提出する書類も法人に比べて少なく、手続きの負担が軽いのが特徴です。

項目個人事業主法人
決算日原則として毎年12月31日事業年度内で自由に設定可能
申告の複雑さ比較的シンプル(会計ソフトで対応しやすい)複雑で税理士への依頼が一般的
赤字の場合の税金所得税・住民税は原則発生しない法人住民税(均等割)が発生する
会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

知っておくべきデメリット 法人と個人事業主の注意点

事業形態を選択する上で、メリットだけでなくデメリットを正確に把握することは、将来のリスクを回避し、持続的な成長を遂げるために不可欠です。

ここでは、法人と個人事業主がそれぞれ抱える可能性のあるデメリットと、それらに対する具体的な対策を詳しく解説します。

法人運営のデメリットと対策

社会的信用度や節税面で大きなメリットがある法人ですが、その反面、設立や運営にコストと手間がかかるという側面も持ち合わせています。

主なデメリットを理解し、事前に対策を講じておきましょう。

デメリット具体的な内容と対策
設立・維持コストが高い設立時のコスト:株式会社の場合、定款認証手数料や登録免許税などで最低でも約20万円以上の費用が必要です。
合同会社であれば6万円程度に抑えられますが、個人事業主のように無料で開業することはできません。
維持コスト:たとえ事業が赤字であっても、法人住民税の均等割(最低でも年間約7万円)を納付する義務があります。
また、社会保険料の会社負担分や、複雑な税務申告を税理士に依頼する場合の顧問料も継続的に発生します。
【対策】設立費用を抑えたい場合は、合同会社の設立を検討する。
電子定款認証を利用すれば、定款に貼付する収入印紙代(4万円)が不要になります。
維持コストを事前にシミュレーションし、事業計画に織り込んでおくことが重要です。
設立・運営の手続きが煩雑設立手続き:個人事業主が開業届を提出するだけなのに対し、法人は定款の作成・認証、法務局への登記申請など、複雑で時間のかかる手続きが求められます。
運営上の手続き:役員の任期が満了すれば役員変更登記が必要ですし、本店を移転した場合も登記申請が義務付けられています。
これらの手続きには費用も発生します。
廃業手続き:廃業する際も、解散登記や清算手続きなどが必要で、個人事業主のように廃業届一枚で完了するわけにはいきません。
【対策】司法書士や行政書士といった専門家のサポートを受けることで、手続きをスムーズに進められます。
近年では、オンラインで必要書類を簡単に作成できる会社設立支援サービスも充実しています。
社会保険への加入が義務法人は、社長一人であっても健康保険と厚生年金保険(社会保険)への加入が法律で義務付けられています。
保険料は会社と役員・従業員が折半して負担するため、会社の資金繰りに大きな影響を与えます。【対策】社会保険料の負担はデメリットである一方、福利厚生が手厚いというメリットでもあります。
人材採用において大きなアピールポイントになります。
役員報酬の金額によって社会保険料も変動するため、資金計画を立てる際は保険料負担額も正確に計算に入れておきましょう。
資金の自由度が低い法人の資産と経営者個人の資産は、法律上明確に区別されます。
そのため、会社の口座にあるお金を、経営者が生活費などのために自由に引き出すことはできません。
経営者は、役員報酬という形で会社から給与を受け取ることになります。
個人的な目的で会社の資金を動かすと、会社からの貸付金として扱われ、利息の計算や返済義務が生じます。
【対策】事業用の支出とプライベートな支出を明確に分けるため、法人用クレジットカードや銀行口座を徹底して使い分ける習慣をつけましょう。事業年度の開始から3ヶ月以内に、適切な役員報酬額を決定し、その範囲内で計画的に資金を管理することが重要です。

個人事業主のデメリットと対策

手軽に始められ、自由度が高い個人事業主ですが、事業規模が大きくなるにつれて税金や信用の面で不利になることがあります。

法人成りも視野に入れつつ、デメリットへの対策を考えていきましょう。

デメリット具体的な内容と対策
社会的信用度が低い傾向一般的に、法人に比べて社会的信用度が低いと見なされることがあります。
これにより、金融機関からの融資審査が厳しくなったり、大企業との取引で契約に至らなかったりするケースがあります。
【対策】事業計画書を綿密に作成し、客観的なデータに基づいて事業の安定性や将来性をアピールすることが重要です。
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」など、個人事業主や小規模事業者を対象とした公的な融資制度を積極的に活用しましょう。
日頃から取引先との良好な関係を築き、着実な実績を積み重ねていくことが信用の構築につながります。
無限責任を負う個人事業主の最大のデメリットとも言えるのが「無限責任」です。
事業上の借入金や損害賠償などの負債は、事業用資産だけで返済しきれない場合、経営者個人の私財(自宅、預貯金など)をすべて使って返済する義務を負います。
これは、事業の失敗が個人の生活を直接破綻させるリスクをはらんでいることを意味します。
【対策】事業で生じる可能性のあるリスクを洗い出し、PL保険(生産物賠償責任保険)など、事業内容に合った損害保険に加入しておくことが有効です。
事業用の銀行口座と個人のプライベートな口座を明確に分け、資金管理を徹底しましょう。
過度な借入は避け、自己資金の範囲で事業を運営するスモールスタートを心がけることもリスク管理の一つです。
節税の選択肢が少ない所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税」が適用されるため、所得が一定額(一般的に800万円前後)を超えると、法人税率よりも所得税率の方が高くなる可能性があります。
また、経営者自身への給与を経費にしたり、生命保険料を全額損金算入したりといった法人特有の節税策は使えません。
【対策】必ず青色申告を行い、最大65万円の青色申告特別控除を受けましょう。
小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度は、掛金が全額所得控除の対象となるため、節税効果が非常に高いです。
家族を従業員として雇用し、「青色事業専従者給与」の届出をすれば、その給与を経費として計上できます。
人材採用や事業承継が難しい人材採用:法人に比べて福利厚生(特に社会保険)の面で見劣りすることがあり、優秀な人材の確保が難しい場合があります。
事業承継:個人事業主が亡くなると、事業用資産はすべて相続財産となり、相続人が事業を引き継がない場合は事業が途絶えてしまいます。
許認可なども個人に紐づいているため、承継が複雑になるケースがあります。
【対策】従業員が5人未満でも、任意で社会保険の適用事業所となることで、求職者へのアピールになります。事業承継を考えている場合は、早い段階で後継者を決め、税理士などの専門家と相談しながら計画的に準備を進めることが重要です。事業規模によっては法人成りも有力な選択肢となります。
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法人成りの最適なタイミングはいつ?両方のメリットを活かす判断基準

個人事業主としてスタートした事業が軌道に乗り、順調に成長してくると、多くの経営者が「法人成り」を意識し始めます。

法人成りとは、個人事業主が事業を法人(主に株式会社や合同会社)に移行することです。
このタイミングを見極めることは、節税効果を最大化し、事業のさらなる成長を加速させるための重要な経営判断となります。

闇雲に法人化するのではなく、個人事業主のメリットを享受しつつ、最適なタイミングで法人のメリットを活かす戦略が求められます。

ここでは、法人成りを検討すべき3つの主要なタイミングと、その判断基準を具体的に解説します。

所得金額が800万円を超えたとき

法人成りを検討する最も代表的な指標が、事業の所得金額です。

一般的に、個人事業主としての所得が800万円から1,000万円を超えたあたりが、税負担の観点から法人成りを検討すべき一つの目安とされています。

これは、個人に課される「所得税」と、法人に課される「法人税」の税率構造の違いに起因します。

所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「超過累進課税」が採用されています。

一方、法人税は資本金1億円以下の中小法人の場合、所得金額に応じて税率が定められています。

区分課税所得金額税率
所得税(個人)195万円以下5%
195万円超 330万円以下10%
330万円超 695万円以下20%
695万円超 900万円以下23%
900万円超 1,800万円以下33%
1,800万円超 4,000万円以下40%
4,000万円超45%
法人税(中小法人)年800万円以下の部分15%
年800万円超の部分23.2%

上記の表を見ると、課税所得が900万円を超えると所得税率は33%に達し、法人税率の23.2%を大きく上回ることがわかります。
この「税率の逆転現象」が起こるポイントが、法人成りを検討する金銭的なメリットが大きくなるタイミングです。

ただし、単純な所得金額だけで判断するのは早計です。

法人化すると、経営者自身は法人から「役員報酬」という形で給与を受け取ることになります。
この役員報酬には「給与所得控除」が適用されるため、個人の所得税を計算する上で有利に働きます。

事業所得全体で見るのではなく、役員報酬や各種控除を考慮した上で、税理士などの専門家と相談しながらシミュレーションを行うことが不可欠です。

消費税の課税事業者になるタイミング

消費税の納税義務も、法人成りのタイミングを計る上で非常に重要な要素です。

原則として、基準期間(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、その年から消費税の「課税事業者」となり、消費税を納める義務が生じます。

ここで法人成りを活用すると、大きな節税効果が期待できます。

個人事業主が課税事業者になるタイミングで法人を設立すると、新しく設立された法人は、原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除されるのです。
これは、法人と個人事業主は法律上、別人格として扱われるため、新設法人の基準期間(2年前)の売上が存在しない(0円)とみなされるからです。

例えば、個人事業主として2024年の課税売上高が1,200万円だった場合、2026年から課税事業者となります。
しかし、2026年の初めに法人成りをすれば、その法人は2027年末まで免税事業者でいられる可能性があります。

この2年間の消費税納税免除は、資金繰りの面で非常に大きなメリットとなります。

ただし、2023年10月から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)には注意が必要です。

取引先からインボイスの発行を求められ、売上1,000万円以下であっても自ら課税事業者を選択している場合は、この免税メリットを享受できません

自社の取引環境や事業戦略を踏まえて、慎重に判断する必要があります。

事業拡大で人材採用や設備投資が必要なとき

税金面だけでなく、事業の成長ステージに合わせて法人成りを検討することも重要です。
特に、事業を大きくスケールさせていくフェーズでは、法人格が持つ「社会的信用」が強力な武器となります。

具体的には、以下のような状況が法人成りを後押しします。

  • 人材の採用: 法人は社会保険への加入が義務付けられており、福利厚生の面で個人事業主より充実しています。求職者からの信頼も厚く、優秀な人材を確保しやすくなる傾向があります。ハローワークや求人サイトでも、法人であることが応募の条件となっているケースも少なくありません。
  • 資金調達: 金融機関から融資を受ける際、法人は登記事項証明書や決算書によって事業の実態が客観的に証明しやすいため、審査で有利に働くことがあります。特に、大規模な設備投資や運転資金のために高額な融資(プロパー融資など)を検討している場合、法人格は必須条件となることもあります。また、ベンチャーキャピタルなどから出資を受けて事業を急成長させたい場合、株式会社でなければその選択肢はありません
  • 取引先の拡大: 大手企業との取引や、許認可が必要な事業(建設業や古物商など)を行う場合、法人であることが取引の前提条件となることがあります。社会的信用度の高さが、新たなビジネスチャンスの獲得に直結するのです。

これらのように、事業の成長に伴い「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源をより多く必要とするようになったとき、法人という器は事業の成長を支える強固な基盤となります。

将来的な事業承継を考えている場合も、株式の譲渡でスムーズに経営権を移転できる法人の方が有利です。

自社の事業計画と照らし合わせ、対外的な信用力が重要になるタイミングが、法人成りの絶好の機会と言えるでしょう。

あなたの事業ステージに最適な形態を見つけよう

この記事では、法人と個人事業主の基本的な違いから、それぞれのメリット・デメリット、そして法人成りのタイミングまでを詳しく解説してきました。

個人事業主は開業の手軽さや運営の自由度が魅力であり、法人は社会的信用の高さや豊富な節税策が大きな強みです。

結論として、どちらの形態が一方的に優れているということはありません。

あなたの事業が現在どのステージにあるのか、そして将来どのようなビジョンを描いているのかによって、最適な選択は大きく異なります。

事業を始めたばかりで利益が少ないうちは、手続きが簡単で税負担も軽い個人事業主からスタートするのが合理的です。
そして、記事中で解説したように、所得が800万円を超える、消費税の課税事業者になる、あるいは人材採用や大きな資金調達を考えるといったタイミングが訪れたときが、法人化を検討する絶好の機会と言えるでしょう。

最終的な判断に迷う場合は、税理士や司法書士といった専門家に相談することをおすすめします。

本記事で得た知識をもとに、あなたの事業をさらなる高みへと導く最適な選択をしてください。

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やりたいと思ったら挑戦したらよいと思います。
起業は厳しい状況の時もありますし、
今は先が見えないので不安も頭をよぎる事もあるかもしれませんが、
一度きりの人生、
自分の人生を後悔しないようにしましょう!