個人事業主からの法人化で注目される「マイクロ法人」。
しかし、一般的な法人と何が違い、どちらを選ぶべきか迷っていませんか?
この記事では、最大のメリットである社会保険料の最適化から、設立・維持費用、社会的信用まで、両者の違いを徹底比較します。
シミュレーションと診断チャートで、あなたの年収や事業計画に最適な選択肢が明確に。
結論、目的によって最適な形態は異なり、その判断基準のすべてを解説します。
マイクロ法人と法人の違いを理解するための基礎知識
近年、フリーランスや個人事業主の間で「マイクロ法人」という言葉を耳にする機会が増えました。
働き方の多様化に伴い、税金や社会保険料の負担を最適化する手法として注目されています。
しかし、「マイクロ法人」と一般的な「法人」との違いが曖昧な方も多いのではないでしょうか。
この章では、まず両者の基本的な定義と法律上の位置づけを明確にし、違いを理解するための土台となる知識を解説します。
この基礎知識を押さえることで、後の章で解説するメリット・デメリットや設立費用の比較がより深く理解できるようになります。
マイクロ法人とは何か 法律上の定義はない
まず最も重要な点として、「マイクロ法人」という言葉は、会社法などの法律で定められた法人の種類ではありません。
法律上の正式な用語ではなく、一般的に使われている「俗称」あるいは「概念」です。
では、何を指して「マイクロ法人」と呼ぶのでしょうか。一般的には、以下のような特徴を持つ法人を指します。
- 事業規模が非常に小さい:社長一人、もしくは配偶者や親族など、ごく少人数で運営される法人。
- 主な目的が社会保険料の最適化:個人事業と法人を組み合わせ、法人から低い役員報酬を受け取ることで、社会保険料の負担を最小限に抑えることを主な目的として設立されるケースが多い。
- プライベートカンパニーとしての側面:資産管理や所得分散などを目的として設立されることもある。
つまり、マイクロ法人とは法人形態の一種ではなく、株式会社や合同会社といった既存の法人形態を、主に社会保険料の負担軽減という特定の目的のために、極めて小規模に運営する「活用方法」や「状態」を指す言葉と理解するのが適切です。
そのため、個人事業主が事業の一部を法人化して「法人成り」し、個人事業とマイクロ法人の二刀流で活動するケースが典型的なモデルとなります。
一般的な法人(株式会社・合同会社)とは何か
一方、「法人」とは、法律によって「人」と同じように権利や義務を認められた組織のことです。
自然人(私たち個人)とは別に、法的に人格(法人格)が与えられ、法人名義で契約を結んだり、財産を所有したりすることができます。
法人の設立は、会社法などの法律に基づいて行われ、事業を通じて利益を追求し、事業を拡大していくことを主な目的とします。
日本で設立される会社の多くは「株式会社」と「合同会社」です。
マイクロ法人も、設立する際はこれらの法人形態のいずれかを選択することになります。
ここでは、代表的な2つの法人形態の特徴を比較してみましょう。
比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
社会的信用度 | 高い。歴史が長く、最も一般的な会社形態として広く認知されている。 | 株式会社に比べるとやや低い傾向。ただし、近年は増加しており認知度も向上している。 |
設立費用(法定費用) | 約20万円~(定款認証手数料、登録免許税など) | 約6万円~(登録免許税のみ) |
出資者と経営者 | 所有と経営の分離 出資者(株主)と経営者(取締役)が必ずしも一致しない。 | 所有と経営の一致 出資者(社員)が原則として経営も行う。 |
意思決定 | 株主総会での決議が必要な場合が多く、手続きが煩雑になることがある。 | 原則として社員全員の同意で決定。迅速な意思決定が可能。 |
利益の配分 | 出資額(株式の保有数)に応じて配当される。 | 定款で自由に決めることができる。出資額に関わらず、貢献度に応じた配分も可能。 |
このように、一般的な法人は事業の成長と拡大を目指すための器であり、その形態として株式会社や合同会社が存在します。
そして、マイクロ法人は、これらの法人格を持つ器を、個人の税金や社会保険料を最適化するという目的のために、あえて小規模に活用する戦略と言えるのです。
この根本的な目的の違いが、両者を分ける最も大きなポイントとなります。
【メリット編】マイクロ法人と法人の違い

マイクロ法人と一般的な法人、それぞれに異なる魅力的なメリットが存在します。
どちらの形態を選ぶかによって、得られる恩恵は大きく変わってきます。
特に、マイクロ法人は「個人」の家計に直結するメリットが大きく、一般的な法人は「事業」の成長を加速させるメリットが大きいという特徴があります。
ここでは、それぞれのメリットを深掘りし、あなたの目的と照らし合わせながら最適な選択ができるよう、具体的に解説していきます。
マイクロ法人のメリット 社会保険料の最適化
マイクロ法人の設立を検討する多くの人が最も期待するメリット、それは社会保険料の劇的な最適化」です。
これは、個人事業主として高い所得を得ている方ほど、その効果を大きく実感できます。
社会保険料の負担を最小限に抑える仕組み
なぜマイクロ法人を設立すると社会保険料を抑えられるのでしょうか。
その仕組みは、個人事業主と法人の社会保険料の計算方法の違いにあります。
- 個人事業主の場合:事業で得た所得(売上から経費を引いた儲け)の全額を基準に国民健康保険料が計算されます。そのため、所得が増えれば増えるほど、保険料も高くなります(上限あり)。
- マイクロ法人の場合:法人の役員として加入する社会保険(健康保険・厚生年金)の保険料は、法人から受け取る「役員報酬」の金額を基準に計算されます。
この違いを利用し、マイクロ法人から受け取る自身の役員報酬を社会保険料が最も低くなる金額帯(例えば月額45,000円など)に設定します。
そして、事業で得た利益の大部分は役員報酬としてではなく、法人の利益として残すのです。
これにより、個人の所得にかかる社会保険料の基準額を意図的に低くコントロールし、結果として年間の保険料負担を大幅に削減できるのです。
個人事業主としての事業収入はそのまま維持しつつ、マイクロ法人を設立して社会保険に加入することで、このメリットを最大限に享受する働き方が可能になります。
【具体例】個人事業主との社会保険料比較
例えば、課税所得800万円の個人事業主がマイクロ法人を設立した場合、社会保険料がどのくらい変わるのか見てみましょう。
区分 | 個人事業主の場合 | マイクロ法人を設立した場合 |
---|---|---|
加入する保険 | 国民健康保険 + 国民年金 | 健康保険 + 厚生年金保険 |
保険料の基準 | 事業所得(約800万円) | 役員報酬(例:月額5万円 / 年間60万円) |
年間の保険料(本人分) | 約124万円 (国保 約104万円 + 国民年金 約20万円) | 約17万円 (健康保険・厚生年金 合計) |
差額 | 年間で約107万円の削減効果 |
※上記は東京都の保険料率などを参考にした概算値であり、お住まいの自治体や年齢、家族構成によって金額は変動します。
このように、シミュレーション上では年間100万円以上の社会保険料を削減できる可能性があり、これがマイクロ法人最大のメリットと言われる所以です。
扶養家族の保険料も節約できる
もう一つの大きなメリットは「扶養」の概念です。
国民健康保険には扶養という考え方がなく、家族一人ひとりに対して保険料が発生します。
しかし、法人が加入する健康保険では、一定の収入以下の配偶者や子供を扶養に入れることができ、その場合、扶養家族の保険料はかかりません。
世帯単位で見たときに、家計全体の負担を大きく軽減できる可能性があります。
一般的な法人のメリット 高い社会的信用と節税の選択肢
一方で、事業の拡大や多角化を目指す場合には、一般的な法人(株式会社や合同会社)が持つメリットが非常に強力な武器となります。
マイクロ法人が「守り」のメリットに優れているとすれば、一般的な法人は「攻め」のメリットに優れていると言えるでしょう。
社会的信用の高さが事業を加速させる
法人格を持つことの最も大きなメリットの一つが「社会的信用」です。
- 取引先の拡大:大企業や金融機関の中には、コンプライアンスや与信管理の観点から、個人事業主とは取引せず、法人とのみ契約するという方針の会社が少なくありません。法人化することで、これまでアプローチできなかった大きなビジネスチャンスを掴める可能性があります。
- 資金調達の有利性:金融機関から融資を受ける際、法人は個人事業主よりも有利になる傾向があります。事業の透明性が高く、経理状況が明確であるため、審査において信頼を得やすいのです。設備投資や事業拡大のための資金調達がスムーズに進むことは、成長のスピードを大きく左右します。
- 人材採用の強化:求人活動においても、「株式会社」という看板は求職者に安心感を与えます。社会保険への加入が義務であることも、福利厚生の面で魅力となり、優秀な人材を確保しやすくなります。
個人事業主より広がる節税の選択肢
法人は、個人事業主と比較して活用できる節税策の幅が格段に広がります。
所得が一定額(一般的に課税所得800万円〜1,000万円)を超えてくると、個人の累進課税よりも法人税の方が税率的に有利になります。
- 経費にできる範囲の広がり:
- 役員報酬:自分自身への給与を経費(損金)として計上できます。所得を分散させることで、個人にかかる所得税・住民税をコントロールできます。
- 退職金(役員退職慰労金):経営者自身に退職金を支払うことができ、これは税制上非常に優遇された「退職所得控除」が適用されるため、大きな節税効果が期待できます。将来の資産形成にも繋がります。
- 生命保険料:法人契約の生命保険を活用し、保険料の一部または全額を損金に算入しながら、将来のリスクに備えることができます。
- 社宅制度の活用:法人が住居を借り上げ、役員や従業員に貸し出す「社宅」制度を利用すれば、家賃の一部を経費として計上できます。
- 欠損金の繰越控除期間の長さ:事業で赤字(欠損金)が出た場合、その赤字を翌年以降の黒字と相殺できる制度です。この繰越期間が、個人事業主(青色申告)の3年間に対し、法人は10年間と非常に長く設定されています。これにより、長期的な視点での経営計画が立てやすくなります。
- 事業承継のしやすさ:個人事業主が亡くなると事業資産はすべて相続財産となりますが、法人の場合は株式の譲渡や相続によってスムーズに後継者へ事業を引き継ぐことができます。会社の永続性を高める上で大きなメリットです。
【デメリット編】マイクロ法人と法人の違い

マイクロ法人にも一般的な法人にも、それぞれメリットがある一方で、無視できないデメリットが存在します。
特に、設立後の運営にかかる手間やコストは、事業を継続する上で重要な判断材料となります。
この章では、それぞれの法人形態が持つデメリットを深掘りし、あなたがどちらのリスクを許容できるかを見極めるための情報を提供します。
マイクロ法人のデメリット 管理の手間とコスト
マイクロ法人は、社会保険料の最適化という大きなメリットの裏側で、特有の手間とコストが発生します。
特に個人事業主と兼業する場合、その管理の複雑さは想像以上かもしれません。
ここでは、マイクロ法人ならではの3つの主なデメリットを解説します。
個人事業との二重管理の手間
マイクロ法人の多くは、個人事業主としての事業も並行して行う「一人二役」のスタイルが前提となります。
これにより、管理業務が二重に発生する点が最大のデメリットです。
- 会計の完全な分離:個人事業の売上・経費と、法人の売上・経費は、明確に分けて管理しなければなりません。プライベートな支出と法人の経費が混在することは絶対に避け、事業用の銀行口座やクレジットカードをそれぞれ用意する必要があります。
- 確定申告の複雑化:年に一度の確定申告では、個人事業主としての「所得税の確定申告」と、法人としての「法人税の申告」の2つを行う必要があります。それぞれ申告期限や書類が異なるため、税務知識がないと混乱しやすく、申告漏れのリスクも高まります。
- 経費按分の煩雑さ:自宅を事務所として利用する場合の家賃や光熱費、通信費など、個人と法人で共用する経費は、事業での使用割合に応じて合理的な基準で按分(あんぶん)計算をする必要があります。この計算と記録に手間がかかります。
法人としての最低限のコスト発生
「マイクロ」という名前から手軽なイメージを持つかもしれませんが、法律上はれっきとした法人です。
そのため、個人事業主にはない、法人ならではのコストが必ず発生します。
最も代表的なのが「法人住民税の均等割」です。
これは、法人が事業を行っている自治体に対して支払う税金で、事業が赤字であっても納税義務があります。
資本金や従業員数によって金額は異なりますが、最低でも年間約7万円のコストがかかることは覚悟しておく必要があります。
社会保険の加入義務と手続き
たとえ社長一人だけの法人であっても、役員報酬を支払う限り、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は法律で義務付けられています。
メリットであると同時に、手続き面ではデメリットにもなり得ます。
- 加入手続き:法人設立後、年金事務所で新規適用事業所としての手続きが必要です。
- 毎月の保険料納付:毎月、役員報酬から天引きした保険料と会社負担分の保険料を合算して納付します。
- 定例手続き:年に一度、保険料を算定し直すための「算定基礎届」の提出や、役員報酬が大幅に変動した際の「月額変更届」の提出など、定期的な事務作業が発生します。
一般的な法人のデメリット 高い維持費と経営の複雑さ
一般的な法人は、社会的信用度が高い反面、その信用を維持するためのコストや、法律に則った厳格な運営が求められます。
事業規模が大きくなるほど、その負担も増大する傾向にあります。
高額になりがちな維持コスト
法人の規模が大きくなるにつれて、維持コストは雪だるま式に増えていきます。
マイクロ法人と比較して、特に以下の費用が重くのしかかる可能性があります。
コストの種類 | 内容 |
---|---|
社会保険料の会社負担 | 従業員を雇用した場合、その従業員の社会保険料の約半分を会社が負担します。従業員数が増えれば増えるほど、この負担は経営を圧迫する大きな要因となります。 |
税理士顧問料 | 事業規模が大きくなると取引が複雑化し、会計処理や税務申告も難易度が上がります。そのため、税理士との顧問契約が必須となるケースが多く、その費用も月数万円からと高額になりがちです。 |
法人住民税・法人事業税 | 利益が出た場合の法人税はもちろん、資本金の額や事業所の所在地によって法人住民税や法人事業税の負担も大きくなります。 |
厳格な会計処理と情報公開の義務
法人は、株主や債権者など多くの利害関係者が存在するため、会社法に基づいた厳格なルールのもとで運営されます。
個人事業主のような自由な経営はできません。
- 会計ルールの遵守:日々の取引は、複式簿記による正確な記帳が義務付けられています。また、お金の使い道も厳しく制限され、経営者が会社の資金を個人的に流用することは「役員貸付金」と見なされ、税務上不利な扱いを受ける可能性があります。
- 決算公告の義務:株式会社の場合、定時株主総会の後に、貸借対照表などの決算内容を官報や日刊新聞紙、あるいは自社のウェブサイトで公開する「決算公告」が義務付けられています。これには数万円の費用がかかります。
手続きの煩雑さとコスト
法人は設立時だけでなく、運営中や廃業時にも様々な法的手続きが求められ、その都度コストが発生します。
- 役員変更登記:株式会社の役員(取締役など)には任期があり、最長でも10年です。任期が満了し、同じ人が再任(重任)する場合でも、法務局で役員変更の登記手続きが必要となり、登録免許税(1万円または3万円)がかかります。この登記を怠ると、代表者が100万円以下の過料に処される可能性があるため注意が必要です。
- 廃業・清算手続きの複雑さ:事業をやめる際も、個人事業主のように廃業届を提出するだけでは終わりません。解散登記、清算人の選任、債権者保護のための官報公告、財産整理、そして清算結了登記といった、時間と費用(司法書士や税理士への報酬を含め数十万円以上)がかかる複雑な手続きを踏む必要があります。
【費用編】マイクロ法人と法人の違いをシミュレーション

法人を設立する上で、最も気になるのが「費用」ではないでしょうか。
マイクロ法人と一般的な法人のどちらを選ぶかによって、設立時にかかる初期費用(イニシャルコスト)と、事業を継続していく上で毎年かかる維持費用(ランニングコスト)は大きく異なります。
この章では、具体的な金額を交えながら、両者の費用を徹底的にシミュレーションし、その違いを明らかにします。
設立時にかかる費用の比較
法人の設立には、定款の作成や登記申請など、さまざまな手続きが必要となり、それに伴う法定費用が発生します。
ここでは、マイクロ法人で選択されることが多い「合同会社」と、一般的な法人である「株式会社」の設立費用を比較してみましょう。
なお、近年は手続きの簡略化と費用削減の観点から電子定款が主流のため、電子定款を利用した場合の費用で比較します。
項目 | 合同会社(マイクロ法人で多い) | 株式会社 | 備考 |
---|---|---|---|
定款認証手数料 | 0円 | 約52,000円 | 合同会社は定款認証が不要です。 |
定款用収入印紙代 | 0円 | 0円 | 電子定款のため不要(紙定款の場合は40,000円) |
登録免許税 | 最低60,000円 | 最低150,000円 | 資本金の額×0.7%(最低額に満たない場合は最低額を納付) |
法定費用 合計 | 約60,000円〜 | 約202,000円〜 | 株式会社は合同会社に比べて約14万円以上高くなります。 |
その他(専門家報酬など) | 約5〜10万円 | 約5〜15万円 | 司法書士や行政書士に依頼する場合の目安です。 |
このように、設立時の初期費用だけで見ると、合同会社は株式会社に比べて約14万円以上安く設立できることがわかります。
事業をスモールスタートさせたいマイクロ法人にとって、この初期費用の差は大きなメリットと言えるでしょう。
もちろん、株式会社でマイクロ法人を設立することも可能ですが、コストを最優先に考えるなら合同会社が有力な選択肢となります。
年間の維持費(税金・社会保険料)の比較
法人経営で本当に重要なのは、設立費用よりもむしろ毎年かかり続ける「維持費」です。
特に税金と社会保険料は、事業の利益や役員報酬の設計によって大きく変動します。
ここでは、年間の事業所得が800万円であるケースを想定し、「個人事業主」「一般的な法人(役員報酬800万円)」「個人事業主+マイクロ法人」の3パターンで手取り額がどう変わるかをシミュレーションします。
シミュレーションの前提条件
- 事業所得:800万円
- 所在地:東京都
- 扶養家族:なし
- 経費・各種控除は簡略化して計算
- マイクロ法人の役員報酬:年間120万円(月10万円)
- 個人事業主の所得:680万円(事業所得800万円 – 役員報酬120万円)
項目 | ① 個人事業主 | ② 一般的な法人(役員報酬800万円) | ③ 個人事業主+マイクロ法人 |
---|---|---|---|
所得税・住民税 | 約185万円 | 約115万円 | 約130万円 |
社会保険料 | 約120万円(国保+国民年金) | 約115万円(健康保険+厚生年金) | 約55万円(国保+国民年金+健康保険+厚生年金) |
法人住民税(均等割) | 0円 | 約7万円 | 約7万円 |
負担合計 | 約305万円 | 約237万円 | 約192万円 |
手取り額(所得 – 負担合計) | 約495万円 | 約563万円 | 約608万円 |
上記のシミュレーション結果からわかる通り、「個人事業主+マイクロ法人」の組み合わせが、手取り額を最も多く残せる可能性があります。
その最大の理由は、社会保険料の最適化にあります。
個人事業主の国民健康保険料は所得に連動して高くなりますが、上限があります。
一方、法人の社会保険料は役員報酬の額(標準報酬月額)に基づいて決まります。
マイクロ法人では、役員報酬を社会保険料が低く抑えられる金額(例えば月10万円など)に設定し、残りの事業所得は個人事業主として得ることで、全体の社会保険料負担を劇的に下げることができるのです。
ただし、法人を維持するには、利益がゼロ(赤字)であっても法人住民税の均等割(最低でも年間約7万円)が必ず発生します。
また、決算申告の手間や税理士への顧問料も維持費として考慮する必要があります。
これらのランニングコストを踏まえた上で、社会保険料の削減メリットが上回るかどうかが、マイクロ法人設立の重要な判断基準となります。
診断チャートでわかる あなたに最適な法人形態の選び方

ここまでマイクロ法人と一般的な法人の違いを様々な角度から比較してきました。
しかし、「結局、自分にはどれが合っているのだろう?」と迷われている方も多いでしょう。
この章では、あなたの現在の状況や将来の展望から、最適な選択肢を見つけるための診断チャート形式のガイドを提供します。
いくつかの質問に答える形で、ご自身に最適な法人形態を見極めていきましょう。
現在の年収や働き方から選ぶ
まず、現在の収入の状況や働き方は、最適な形態を選ぶ上で最も重要な判断基準の一つです。
特に社会保険料や所得税の負担に直結するため、慎重に検討しましょう。
ケース1:会社員で、副業の収入がある
会社員として給与所得を得ながら副業をしている場合、マイクロ法人を設立することで社会保険料の負担を劇的に軽減できる可能性があります。
会社員として勤務先で社会保険に加入していれば、マイクロ法人から役員報酬を受け取っても、新たな社会保険料は発生しないか、ごく少額で済みます。
副業の事業所得が年間200万円を超え、今後も安定して収益が見込めるなら、マイクロ法人設立は非常に有効な選択肢です。
ケース2:専業の個人事業主・フリーランス
専業の個人事業主の方は、所得の金額が大きな判断材料となります。
所得税は累進課税で所得が増えるほど税率が上がりますが、法人税は一定です。
この税率の差が逆転するポイントが「法人成り」を検討する一つの目安です。
課税所得が800万円~900万円を超えてくると、所得税・住民税の負担が法人税の負担を上回るため、一般的な法人を設立して役員報酬を受け取る形にした方が、トータルの税負担を抑えられる可能性があります。
また、事業所得が300万円~500万円程度でも、国民健康保険料の負担が大きいと感じている場合は、マイクロ法人を設立して社会保険に切り替えることで、年間の負担を軽減できるケースがあります。
あなたの状況 | おすすめの形態 | 主な理由・検討ポイント |
---|---|---|
会社員で副業収入がある | マイクロ法人 | 社会保険料の負担を最小限に抑えつつ、所得を分散できる。副業の所得が安定している場合に特に有効。 |
専業で課税所得900万円超 | 一般的な法人 | 所得税率が法人税率を大きく上回るため、法人化による節税(法人成り)メリットが大きい。 |
専業で事業所得300〜500万円 | マイクロ法人 or 個人事業主 | 国民健康保険料の負担額と、法人設立・維持コストを天秤にかける。社会保険料のシミュレーションが必須。 |
専業で事業所得300万円未満 | 個人事業主 | 法人化のコストや手間を考えると、個人事業主のままの方がメリットが大きい場合が多い。 |
将来の事業計画から選ぶ
次に、あなたのビジネスの将来像を考えてみましょう。
事業をどこまで大きくしたいか、どのような目標を持っているかによって、選ぶべき形態は大きく変わります。
事業拡大や資金調達を目指す場合
従業員を雇用したり、大規模な設備投資のために銀行から融資を受けたり、外部から出資を募ることを計画しているなら、一般的な法人(特に株式会社)一択と言えるでしょう。
法人は個人事業主よりも社会的信用が高く、金融機関や取引先からの信頼を得やすいのが最大の強みです。
決算書の公開義務など、経営の透明性が求められる分、大きなビジネスを展開する上での土台となります。
スモールビジネスを継続したい場合
一方、自分一人、あるいは家族だけで事業を続け、規模の拡大よりも自由な働き方を重視する場合は、マイクロ法人や個人事業主が適しています。
特にマイクロ法人は、法人格のメリット(経費の範囲が広いなど)を享受しつつ、社会保険料の最適化を図れるため、賢く事業を継続したい方に最適な選択肢です。
事業拡大の予定がないのであれば、株式会社の高い維持コストや複雑な手続きは不要かもしれません。
将来の事業計画 | おすすめの形態 | 主な理由・検討ポイント |
---|---|---|
事業拡大・従業員の採用 | 一般的な法人(株式会社) | 社会的信用が高く、求人応募が集まりやすい。組織としてのガバナンスが効かせやすい。 |
銀行融資・外部からの資金調達 | 一般的な法人(株式会社) | 金融機関からの信用度が個人事業主とは格段に違う。株式発行による資金調達が可能。 |
BtoB取引や許認可事業が中心 | 一般的な法人 | 取引先によっては法人格がないと契約できない場合がある。許認可取得の要件になっていることも。 |
現状維持・スモールビジネス継続 | マイクロ法人 or 個人事業主 | 大きなコストや手間をかけずに事業を継続できる。利益の最大化よりもライフワークバランスを重視する場合に最適。 |
許容できるコストや手間から選ぶ
最後に、法人を設立・維持するためにかかる費用と事務的な手間を、あなたがどれだけ許容できるかという視点も重要です。
メリットばかりに目を向けるのではなく、現実的な負担を考慮して判断しましょう。
法人を設立すると、個人事業主時代にはなかった様々なコストと手間が発生します。
例えば、設立時には定款認証や登記費用がかかります。
そして、事業が赤字であっても毎年支払わなければならない「法人住民税の均等割(最低でも約7万円)」が発生します。
さらに、法人の決算申告は個人事業主の確定申告よりもはるかに複雑なため、ほとんどの場合、税理士との顧問契約が必須となり、その費用もランニングコストとして上乗せされます。
これらの負担を許容できるかどうかが、大きな分かれ道です。
あなたの考え方 | おすすめの形態 | 主な理由・検討ポイント |
---|---|---|
とにかく初期費用を抑えたい | 個人事業主 | 開業届を出すだけで費用は0円。最も手軽に始められる。 |
赤字でも発生する維持費は避けたい | 個人事業主 | 法人のように赤字でも発生する均等割がないため、収益が不安定な時期でも安心。 |
経理や社会保険の手間を最小限にしたい | 個人事業主 | 確定申告は比較的シンプル。社会保険の手続きも法人に比べると簡素。 |
節税メリットのためならコストや手間を許容できる | マイクロ法人 or 一般的な法人 | 税理士費用や均等割を支払ってでも、それ以上の節税効果や社会的信用が見込めるかが判断基準。 |
以上の3つの視点からご自身の状況を振り返ることで、あなたにとって最適な選択肢が見えてきたのではないでしょうか。
次の章では、実際にマイクロ法人を設立すると決めた場合の具体的なステップについて解説していきます。
マイクロ法人設立を決めたら知っておきたいこと

マイクロ法人と一般的な法人の違いを理解し、ご自身にとってマイクロ法人設立が最適だと判断された方へ。
ここでは、実際に設立へ向けて動き出す際に必ず知っておくべき「手続きの流れ」「会社形態の選択」「専門家の選び方」という3つの重要なポイントを具体的に解説します。
スムーズなスタートを切るために、しっかりと準備を進めましょう。
設立手続きの基本的な流れ
法人設立は、個人事業主の開業とは異なり、法務局への登記申請が必要です。
手続きには多くのステップがあり、準備も煩雑になります。
ここでは、設立までの基本的な流れを7つのステップに分けてご紹介します。
- 基本事項の決定まず、会社の骨格となる基本事項を決めます。商号(会社名)、本店所在地、事業目的、資本金の額、事業年度、役員構成などを具体的に決定します。特に事業目的は、将来行う可能性のある事業も視野に入れて記載しておくことが重要です。
- 法人印の作成登記申請やその後の契約で必要となる法人印(代表者印、銀行印、角印の3点セットが一般的)を作成します。オンラインでも注文可能ですが、登記申請日までに手元に届くよう、早めに手配しましょう。
- 定款(ていかん)の作成・認証会社のルールを定めた「定款」を作成します。株式会社の場合は、作成した定款を公証役場で認証してもらう必要があります。合同会社の場合は定款の作成は必要ですが、公証役場での認証は不要です。この認証手数料の有無が、設立費用に大きな差を生む要因の一つです。
- 資本金の払込み発起人(会社を設立する人)個人の銀行口座に、定めた資本金を振り込みます。その通帳のコピーが、資本金が確かに払い込まれたことの証明(払込証明書)となります。この時点ではまだ法人口座は開設できません。
- 登記申請書類の作成法務局へ提出するための登記申請書、登録免許税納付用台紙、就任承諾書、印鑑届書などの書類一式を作成します。専門的な知識が必要となるため、司法書士に依頼するか、テンプレートなどを活用して慎重に作成します。
- 法務局への登記申請本店所在地を管轄する法務局へ、作成した書類一式を提出します。この登記申請日が会社の設立日となります。申請から登記が完了するまでには、1週間から2週間程度かかります。
- 設立後の各種届出登記が完了したら、税務署へ「法人設立届出書」や「青色申告の承認申請書」などを提出します。また、社会保険に加入するため、年金事務所やハローワーク、労働基準監督署への届出も必要です。提出期限が定められている書類が多いため、漏れなく迅速に行いましょう。
合同会社と株式会社どちらを選ぶべきか
マイクロ法人を設立する場合、そのほとんどが「合同会社」か「株式会社」のどちらかを選択することになります。
それぞれに特徴があり、ご自身の事業計画や目的に合わせて選ぶことが大切です。
ここでは、両者の違いを比較表で分かりやすく整理しました。
比較項目 | 合同会社(LLC) | 株式会社(KK) |
---|---|---|
設立費用(法定費用) | 約6万円〜 (登録免許税6万円〜) | 約20万円〜 (登録免許税15万円〜、定款認証手数料約5万円) |
社会的信用度 | 株式会社に比べるとやや低い傾向 | 一般的に高い |
意思決定 | 原則として出資者(社員)全員の同意が必要。定款で変更可能。 | 株主総会で決定。所有(株主)と経営(取締役)が分離。 |
役員の任期 | 任期なし(定款で定めることも可能) | 原則2年(最長10年まで伸長可能)。任期ごとに登記が必要。 |
決算公告の義務 | 義務なし | 義務あり(官報掲載などで毎年費用が発生) |
資金調達 | 株式発行による資金調達は不可。融資や出資者からの追加出資が中心。 | 株式発行による多様な資金調達が可能。 |
上記の比較から、マイクロ法人の設立目的が主に「社会保険料の最適化」や「プライベートカンパニーとしての運営」である場合、設立・維持コストが低く、経営の自由度が高い合同会社が最適な選択肢となるケースが非常に多いです。
一方、将来的に事業を拡大し、外部からの資金調達や上場を目指すビジョンがある場合は、初期費用は高くとも社会的信用度の高い株式会社を選ぶメリットが大きいでしょう。
税理士選びのポイント
マイクロ法人は一人で運営することも可能ですが、税務や会計の専門家である税理士のサポートは、事業を円滑に進める上で非常に重要です。
特に、法人決算は個人事業主の確定申告よりも複雑なため、専門家の力を借りるのが賢明です。
ここでは、後悔しない税理士選びのポイントを5つご紹介します。
ポイント1:マイクロ法人・スモールビジネスへの理解度
税理士にも得意分野があります。
大企業を専門とする税理士よりも、個人事業主や小規模法人のサポート実績が豊富な税理士を選びましょう。
マイクロ法人特有の節税スキームや社会保険に関する知識を持っているかどうかが重要です。
ポイント2:料金体系の明確さ
「顧問料は月額いくらか」「決算申告料は別途いくらかかるのか」「記帳代行や給与計算は含まれているのか」など、料金体系が明確で分かりやすい事務所を選びましょう。
複数の税理士から見積もりを取り、サービス内容と料金を比較検討することをおすすめします。
ポイント3:コミュニケーションのしやすさ
税理士は事業のパートナーです。
専門用語を多用せず、分かりやすく説明してくれるか、質問に対して迅速かつ丁寧に対応してくれるかなど、コミュニケーションの取りやすさは非常に重要です。
契約前の面談で、人柄や相性もしっかりと確認しましょう。
ポイント4:IT・クラウド会計への対応力
近年、freeeやマネーフォワード クラウドといったクラウド会計ソフトの利用が主流になっています。
クラウド会計に精通している税理士であれば、データの共有がスムーズになり、経理業務の大幅な効率化が期待できます。
チャットツールなど、現代的なコミュニケーション手段に対応しているかも確認しておくと良いでしょう。
ポイント5:積極的な節税提案力
言われたことだけをこなすのではなく、会社の状況に合わせて積極的に節税策や経営改善のアドバイスを提案してくれる税理士は頼りになります。
役員報酬の最適な設定額や、利用できる補助金・助成金など、プロの視点から有益な情報を提供してくれるかどうかを見極めましょう。
まとめ
本記事では、マイクロ法人と一般的な法人の違いを、メリット・デメリットや費用面から多角的に解説しました。
結論として、どちらか一方が絶対的に優れているわけではなく、個人の年収や事業計画によって最適な選択は異なります。
社会保険料の最適化を最優先する個人事業主の方にはマイクロ法人が、事業拡大や高い社会的信用を求めるなら一般的な法人が適しています。
ご自身の目的を明確にし、本記事の診断チャートも参考に最適な法人形態を選択しましょう。