【徹底比較】個人事業主とマイクロ法人はどっちが得?税金・社会保険のメリットを税理士が解説

個人事業主として事業が軌道に乗り、売上が増えてきたものの「税金や国民健康保険料の負担が重く、手元に残るお金が思ったより少ない…」と悩んでいませんか?
その解決策として注目されるのが「マイクロ法人」の設立です。
しかし、本当に得なのか、自分にもメリットがあるのか、設立や運営の手間はどのくらいかなど、具体的な疑問や不安を感じている方も多いでしょう。

この記事では、個人事業主とマイクロ法人について、税金・社会保険料・設立コスト・経費の範囲など7つの重要な観点からメリット・デメリットを徹底比較します。
さらに、あなたがどちらを選ぶべきかの具体的な判断基準から、設立する際の注意点、よくある質問まで、税理士が専門家の視点で網羅的に解説します。

結論からお伝えすると、事業所得が一定額を超えている場合、社会保険料と税金の両方を最適化できるマイクロ法人を設立する方が有利になるケースがほとんどです。

この記事を読めば、なぜ有利になるのかという仕組みを完全に理解し、ご自身の状況に合わせた最適な選択ができるようになります。

【結論】社会保険料と税金を抑えたいならマイクロ法人が有利

個人事業主として事業が軌道に乗り、所得が増えてくると「税金や社会保険料の負担が重い…」と感じる方は少なくありません。
その有力な解決策となるのが「マイクロ法人」の設立です。結論から言うと、一定以上の事業所得がある場合、社会保険料と税金の両面で負担を大きく軽減できるため、マイクロ法人が有利になります。

なぜなら、個人事業主と法人では、適用される社会保険制度と税金の仕組みが根本的に異なるからです。
この違いをうまく活用することで、手元に残るお金を最大化できる可能性があります。

具体的に「社会保険料」と「税金」という2つの側面から、マイクロ法人が有利になる理由を詳しく見ていきましょう。

なぜマイクロ法人で社会保険料が安くなるのか

マイクロ法人を設立する最大のメリットは、社会保険料を最適化できる点にあります。

個人事業主が加入する「国民健康保険」と、法人の役員として加入する「健康保険(協会けんぽ等)」では、保険料の計算方法が大きく異なります。
この違いが、節約の鍵を握っています。

個人事業主が加入する国民健康保険と国民年金

個人事業主は、原則として「国民健康保険」と「国民年金」に加入します。
これらの制度には次のような特徴があります。

  • 国民健康保険料は所得に連動して高くなる
    国民健康保険の保険料は、前年の事業所得などに応じて決まります。所得が増えれば増えるほど保険料も高くなり、自治体によっては年間100万円を超えるケースも珍しくありません。
  • 扶養の概念がない
    国民健康保険には、会社員のような「扶養」という考え方がありません。そのため、配偶者や子供など、家族が増えればその人数に応じて保険料の負担が増加します。
  • 国民年金保険料は一律
    国民年金の保険料は、所得にかかわらず全員一律(令和6年度は月額16,980円)です。ただし、将来受け取れる年金額は、次に説明する厚生年金に比べて少なくなります。

マイクロ法人で加入する健康保険と厚生年金

一方、マイクロ法人を設立し、その役員になると「健康保険(協会けんぽなど)」と「厚生年金」に加入します。
これを一般的に「社会保険」と呼びます。

社会保険料は、所得全体ではなく、法人から受け取る「役員報酬」の金額(標準報酬月額)に基づいて決まります。
これが最大のポイントです。

例えば、個人事業としての所得はそのままに、マイクロ法人からの役員報酬を月額45,000円や60,000円といった低い金額に設定します。
すると、その低い役員報酬を基準に社会保険料が計算されるため、負担を劇的に抑えることが可能になるのです。

さらに、健康保険には「扶養」の制度があります。被保険者(あなた)の収入が一定の基準を満たしていれば、配偶者や子供が何人いても、あなたが支払う健康保険料は変わりません。
これは、家族がいる方にとって非常に大きなメリットと言えるでしょう。

項目個人事業主マイクロ法人(役員)
加入する制度国民健康保険 + 国民年金健康保険 + 厚生年金
保険料の基準前年の事業所得など(青天井)役員報酬額(コントロール可能)
扶養制度なし(家族の人数で負担増)あり(被扶養者の保険料負担なし)
将来の年金基礎年金のみ基礎年金 + 報酬比例の年金

なぜマイクロ法人で税金が安くなるのか

マイクロ法人は、税金面でも大きなメリットをもたらします。
これは、個人に課される「所得税」と法人に課される「法人税」の税率構造の違い、そして「給与所得控除」という強力な武器を使えるようになるためです。

所得税と法人税の税率の違い

個人事業主の所得には「所得税」が課されます。
所得税は、所得が高くなるほど税率も高くなる「累進課税」が採用されており、税率は5%から最大で45%まで上がります。
住民税(約10%)と合わせると、所得の半分以上が税金となる可能性もあるのです。

一方、マイクロ法人に課される「法人税」の税率は、所得税ほど高くありません。
資本金1億円以下の中小法人の場合、所得800万円以下の部分には15%という低い軽減税率が適用されます。

個人事業主として高い所得税率で納税する代わりに、所得の一部を法人に移し、低い法人税率を適用させることで、トータルの税負担を抑えることができます。

税金の種類課税所得金額税率
所得税(個人)~ 195万円5%
900万円 ~ 1,800万円33%
4,000万円 ~45%
法人税(中小法人)~ 800万円15%
800万円 ~23.2%

給与所得控除という大きなメリット

税金面でマイクロ法人が有利になるもう一つの大きな理由が「給与所得控除」の活用です。

個人事業主は、売上から経費を差し引いた「事業所得」が課税対象となります。
一方、マイクロ法人を設立して自分に役員報酬を支払うと、その報酬は「給与所得」となります。
給与所得には、サラリーマンと同じように「給与所得控除」という、いわば「みなし経費」が認められています。

給与所得控除は、実際の経費の有無にかかわらず、収入金額に応じて一定額が自動的に差し引かれる制度です。
例えば、年間の役員報酬が162.5万円以下の場合、最低でも55万円の控除が受けられます。

個人事業主のままでは使えなかったこの給与所得控除という「見えない経費」を使えるようになることで、課税対象となる所得を大きく圧縮できるのです。
個人事業の所得と、マイクロ法人からの給与所得に分散させることで、それぞれの所得に適用される税率を低く抑えつつ、給与所得控除も利用できるという、税制上のメリットを最大限に享受できます。

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個人事業主とマイクロ法人の違いを7つの観点から徹底比較

個人事業主とマイクロ法人、どちらが自分にとって最適な選択なのでしょうか。

ここでは、「税金」「社会保険」「コスト」といった重要な7つの観点から、両者の違いを分かりやすく徹底比較します。

それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、あなたの事業フェーズや将来の展望に合った事業形態を見つけましょう。

比較1 税金

事業で得た利益に対して課される税金は、個人事業主と法人で種類や計算方法が大きく異なります。

所得の金額によって、どちらが有利になるかが変わってきます。

個人事業主に課されるのは「所得税」で、所得が増えるほど税率が上がる累進課税(5%~45%)が採用されています。

一方、法人の利益(所得)に課されるのは「法人税」で、税率はおおむね一定です。

マイクロ法人の場合、役員報酬として自分に給与を支払うことで、強力な節税効果を持つ「給与所得控除」を活用できるのが最大のポイントです。

項目個人事業主マイクロ法人
主な税金所得税、住民税、事業税、消費税法人税、法人住民税、法人事業税、消費税
(役員報酬に対して所得税・住民税)
利益への課税事業所得に対して所得税(累進課税)法人所得に対して法人税(ほぼ一定税率)
給与所得控除なし(自分への給与は経費にならない)あり(役員報酬が対象)
赤字の場合所得税・住民税はかからない法人住民税の均等割(最低年7万円程度)が発生する
消費税課税売上高1,000万円超で課税事業者に原則、設立から2年間は免税事業者(インボイス制度への登録等、例外あり)

一般的に、課税所得が800万円~900万円を超えてくると、所得税の税率が高くなるため、法人化した方が税負担を抑えられる可能性が高まります。

比較2 社会保険

社会保険料は、事業を続ける上で大きな負担となり得るコストです。

個人事業主とマイクロ法人では加入する制度が根本的に異なり、ここがマイクロ法人を設立する最大のメリットと言えます。

個人事業主は「国民健康保険」と「国民年金」に加入します。

国民健康保険料は前年の所得に応じて決まり、上限はあるものの所得が増えれば保険料も高くなります。
また、扶養という概念がないため、家族の分も人数に応じて保険料を支払う必要があります。

一方、マイクロ法人を設立すると、役員として「健康保険(協会けんぽなど)」と「厚生年金」に加入します。

保険料は役員報酬の金額(標準報酬月額)を基準に計算され、会社と個人で半分ずつ負担(労使折半)します。

役員報酬を低く設定することで、社会保険料を大幅に抑制することが可能です。
さらに、配偶者などを扶養に入れることができ、その場合でも追加の保険料はかかりません。

項目個人事業主マイクロ法人
加入制度国民健康保険 + 国民年金健康保険(協会けんぽ等) + 厚生年金
保険料の基準前年の事業所得など役員報酬の金額(標準報酬月額)
保険料の負担全額自己負担会社と個人で折半(労使折半)
扶養の概念なしあり(被扶養者の追加保険料は原則不要)
将来の年金基礎年金のみ基礎年金 + 厚生年金(2階建て)

比較3 設立・維持コスト

事業を始める際の手軽さや、継続的にかかるコストも重要な判断材料です。

個人事業主は、税務署に開業届を提出するだけで、費用は一切かかりません。

維持コストも、赤字であれば税金がかからないため、税理士費用などを除けば基本的にゼロです。

対してマイクロ法人の設立には、定款の作成や登記申請が必要で、法定費用がかかります。

設立後も、赤字であっても法人住民税の均等割(最低でも年7万円程度)を毎年納付しなければなりません。
また、決算申告が複雑なため、税理士への依頼費用も個人事業主より高くなる傾向があります。

項目個人事業主マイクロ法人
設立コスト0円合同会社:約6万円~
株式会社:約20万円~
維持コストほぼ0円(税理士費用などを除く)法人住民税均等割(年約7万円~)
税理士費用(個人より高め)
社会保険料の会社負担分

比較4 経費の範囲

経費として認められる範囲が広いほど、課税対象となる所得を圧縮でき、節税につながります。
この点では、マイクロ法人が有利です。

個人事業主の場合、経費にできるのは事業に直接必要な「必要経費」に限られます。

自宅兼事務所の家賃や光熱費は、事業で使っている割合を計算して経費にする「家事按分」が必要です。
また、自分自身への給与は経費にできません。

マイクロ法人では、経費(損金)として認められる範囲が広がります。

自分への役員報酬が全額経費になるほか、自宅を法人名義で借り上げて社宅とすることで家賃の大部分を経費に計上できる「役員社宅制度」や、出張の際に交通費・宿泊費とは別に支給できる非課税の「出張手当(日当)」など、個人事業主にはない節税スキームを活用できます。

比較5 赤字の繰越

事業を始めたばかりの時期は、赤字になることも少なくありません。
その赤字を翌年以降の黒字と相殺できる制度が「繰越控除」です。

個人事業主(青色申告)の場合、発生した赤字(純損失)を最大3年間繰り越すことができます。

一方、マイクロ法人の場合、赤字(欠損金)の繰越可能期間は最大10年間と長くなっています。

設備投資などで初期に大きな赤字が出た場合でも、将来の黒字と相殺しやすいため、長期的な視点で見ると法人の方が有利と言えるでしょう。

比較6 社会的信用度

取引先や金融機関からの見え方、つまり社会的信用度は、事業を拡大していく上で非常に重要です。
この点においては、法人格を持つマイクロ法人に明確なアドバンテージがあります。

個人事業主は、その手軽さから誰でもなれる反面、法人に比べて信用度が低いと見なされることがあります。
特に、大企業との取引や高額な融資、許認可が必要な事業においては、法人格が必須条件となるケースも少なくありません。

マイクロ法人は、法務局で登記されているため、会社の存在や資本金、役員情報が公に証明されています。
これにより、取引先は安心して契約を結ぶことができ、金融機関からの融資審査や人材採用の面でも有利に働くことが期待できます。

比較7 事務負担

日々の経理や年に一度の申告業務など、事務的な負担も無視できない要素です。

個人事業主の確定申告は、会計ソフトを使えば比較的シンプルで、自分自身で行うことも十分可能です。

それに対してマイクロ法人は、日々の経理に加えて、社会保険の手続きや株主総会の議事録作成など、個人事業主にはない事務作業が発生します。
特に、年に一度の法人決算申告は非常に複雑で、専門知識が必要なため、ほとんどの場合で税理士への依頼が必須となります。

設立や役員変更の際には、法務局での登記手続きも必要です。

総じて、事務的な手間とコストは法人の方が格段に重くなります。

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マイクロ法人設立の判断基準 あなたはどっちを選ぶべきか

ここまで個人事業主とマイクロ法人の違いを多角的に比較してきましたが、「結局、自分はどちらを選べばいいのか?」と悩んでいる方も多いでしょう。

最適な選択は、あなたの事業の状況、所得、そして将来のビジョンによって大きく異なります。

この章では、具体的な判断基準をもとに、あなたがどちらの道を選ぶべきかを明確にしていきます。

個人事業主のままがおすすめな人

マイクロ法人には多くのメリットがありますが、誰もが法人化した方が得をするわけではありません。
まずは事業を安定させ、成長させることに集中したい段階では、個人事業主のままの方がフットワークも軽く、有利なケースが多くあります。

具体的には、以下のような方が該当します。

タイプ個人事業主がおすすめな理由
事業所得(利益)がまだ少ない方一般的に、課税所得が300万円~400万円程度までであれば、個人事業主の方が税金や社会保険料を含めたトータルの手残りが多くなる傾向にあります。マイクロ法人を設立すると、赤字でも法人住民税の均等割(最低でも年間約7万円)が発生します。設立・維持コストを考慮すると、所得が低い段階での法人化はかえってコスト負担が重くなる可能性があります。
配偶者の扶養に入っている方配偶者の社会保険の扶養に入りながら事業を行っている場合、個人事業主であれば所得要件(年間所得130万円未満など)を満たす限り、扶養を継続できます。しかし、マイクロ法人を設立して役員になると、たとえ役員報酬が低額でも社会保険への加入が義務となり、扶養から外れなければなりません。これにより、世帯全体での社会保険料負担が大幅に増える可能性があります。
事務手続きの手間を最小限にしたい方個人事業主の経理や税務申告は、会計ソフトを使えば比較的ご自身で完結させやすいです。一方、法人は会計処理が複雑になり、法人税申告書の作成は専門知識が必要です。社会保険の手続きも発生するため、税理士や社会保険労務士への依頼がほぼ必須となり、その分のコストと手間がかかります。事業に集中したい、バックオフィス業務はシンプルにしたいという方には個人事業主が向いています。
初期費用やランニングコストをかけたくない方個人事業主は開業届を提出するだけで、費用はかかりません。しかし、マイクロ法人(株式会社の場合)の設立には、定款認証や登記費用などで最低でも20万円以上の実費が必要です。前述の通り、法人住民税の均等割や専門家への顧問料といった維持コストも毎年かかります。まずはコストを抑えて事業を始めたい、スモールスタートを切りたいという方は個人事業主が最適です。

マイクロ法人設立がおすすめな人

一方で、事業が軌道に乗り、一定以上の利益が見込めるようになった方にとっては、マイクロ法人設立が強力な選択肢となります。

税金や社会保険料の負担を最適化し、事業のさらなる成長を目指すフェーズに入った方は、法人化を積極的に検討すべきです。

具体的には、以下のような方がマイクロ法人設立のメリットを最大限に享受できます。

タイプマイクロ法人設立がおすすめな理由
課税所得が安定して高額な方個人事業主の所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率も高くなります(最大45%)。課税所得が800万円を超えてくるあたりから、税金と社会保険料の合計負担が非常に重くなります。マイクロ法人を設立し、所得を役員報酬(給与所得)と法人利益に分散させることで、給与所得控除を活用しつつ、低い法人税率の恩恵を受けられるため、トータルの税負担を劇的に軽減できる可能性があります。
国民健康保険料の負担を軽減したい方国民健康保険料は前年の所得に応じて決まり、上限額も高額です。特に所得が高い個人事業主にとっては大きな負担となります。マイクロ法人を設立し、役員報酬を低めに設定すれば、社会保険料(健康保険・厚生年金)を大幅に抑えることが可能です。個人事業の利益は法人に移さず、そのまま個人事業の所得として申告することで、「個人事業(高所得・社会保険料なし)+マイクロ法人(低報酬・低社会保険料)」という最適な組み合わせが実現できます。
社会的信用度を高め、事業を拡大したい方法人格を持つことで、金融機関からの融資審査や、大手企業との取引において有利になることがあります。「法人でなければ契約できない」というケースも少なくありません。将来的に資金調達や事業拡大を視野に入れているのであれば、法人化は信用の証となり、ビジネスチャンスを広げる重要なステップになります。
節税の選択肢を増やしたい方マイクロ法人では、個人事業主にはない多様な節税策を活用できます。自分自身への退職金(役員退職慰労金)を準備して損金にしたり、生命保険料を経費化したりすることが可能です。また、家族を役員にして役員報酬を支払うことで、世帯全体での所得分散も図りやすくなります。長期的な視点で資産形成や節税を考えたい方には、マイクロ法人が非常に有効です。

最終的な判断は、ご自身の所得額や事業計画をもとに、税理士などの専門家に相談し、具体的なシミュレーションを行った上で決定することが最も確実です。

あなたのビジネスが次のステージへ進むための、最適な選択をしてください。

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個人事業主がマイクロ法人を設立する際の注意点

マイクロ法人を設立して社会保険料や税金の負担を軽減するスキームは、多くの個人事業主にとって非常に魅力的です。
しかし、そのメリットを最大限に享受するためには、設立前後に押さえておくべき重要な注意点が存在します。

知識が不十分なまま設立を進めてしまうと、期待した節税効果が得られないばかりか、かえって税務上のリスクを抱え込むことにもなりかねません。

ここでは、失敗しないための3つの重要な注意点を具体的に解説します。

役員報酬の設定金額

マイクロ法人設立の成否を分ける最も重要な要素が「役員報酬」の設定です。

役員報酬の金額が、社会保険料の負担額を直接決定するため、慎重に検討する必要があります。

社会保険料(健康保険・厚生年金)は、役員報酬の金額を基に算出される「標準報酬月額」によって等級が分かれています。
この等級を可能な限り低く抑えることが、社会保険料を削減する鍵となります。

例えば、協会けんぽ(東京都)の場合、標準報酬月額の最低等級は58,000円です。
これに該当するのは、月々の役員報酬が63,000円未満の場合です。
この金額を目安に、社会保険料が最も安くなるように役員報酬を低く設定するのがマイクロ法人スキームの基本戦略です。

月額の役員報酬標準報酬月額健康保険料(個人負担)厚生年金保険料(個人負担)合計(月額)
50,000円58,000円約2,900円約5,300円約8,200円
100,000円98,000円約4,900円約8,900円約13,800円
200,000円200,000円約10,000円約18,300円約28,300円

※上記は概算値です。正確な金額は日本年金機構や協会けんぽの保険料額表をご確認ください。

ただし、役員報酬には一度決めたら事業年度の途中では原則変更できないという「定期同額給与」のルールがあります。

事業年度開始(期首)から3ヶ月以内に決定する必要があるため、設立時に慎重な資金計画を立てることが不可欠です。

生活費の大部分は個人事業の所得で賄い、法人からは最低限の役員報酬を受け取る、という形を意識しましょう。

法人設立のベストな時期

「いつ法人を設立するか」というタイミングも、節税効果を最大化する上で非常に重要です。

焦って設立すると、メリットを十分に活かせない可能性があります。

まず大前提として、個人事業の所得(売上から経費を引いた利益)が安定して出ている状態でなければ、法人化のメリットはほとんどありません。
その上で、以下の2つの観点からベストな時期を判断しましょう。

1. 所得税の負担が重くなったタイミング

個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税です。
一般的に、課税所得が500万円~800万円を超えてくると、所得税・住民税・国民健康保険料の合計負担がかなり重くなります。
このラインを超えたあたりが、法人化による所得分散(役員報酬と法人利益)のメリットが大きくなる一つの目安です。

2. 消費税の課税事業者になるタイミング

個人事業主は、2年前の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者となり納税義務が発生します。
この課税事業者になるタイミングでマイクロ法人を設立するのは非常に有効な戦略です。

例えば、個人事業の売上の一部を新しく設立したマイクロ法人に移管し、個人事業の課税売上高を1,000万円以下にコントロールすることで、個人事業の免税事業者ステータスを維持しやすくなります。
さらに、新設した法人も資本金1,000万円未満であれば、原則として設立から最大2年間は消費税が免除されます。
この「免税メリット」を最大限に活用できるタイミングが、法人設立の好機と言えるでしょう。

個人事業主とマイクロ法人の事業内容を明確に分ける

マイクロ法人スキームを実践する上で、税務調査などで最も厳しくチェックされるのがこの点です。

個人事業とマイクロ法人の事業内容が同一、または極めて類似していると、税務署から「租税回避行為」とみなされ、スキーム全体が否認されるという最大のリスクがあります。

これを「法人格否認の法理」といい、もし適用されると、法人の所得が個人の所得に合算され、多額の追徴課税や延滞税が発生する恐れがあります。
このような事態を避けるため、誰が見ても客観的に「別々の事業を行っている」と説明できるようにしておく必要があります。

事業内容の分け方の具体例

  • 業務内容で分ける:個人事業で「Webライティング」、法人で「Webサイト制作・コンサルティング」を行う。
  • 事業の種類で分ける:個人事業で「不動産賃貸業」、法人で「不動産管理業」や「太陽光発電事業」を行う。
  • 取引先で分ける:個人事業ではA社・B社との取引、法人ではC社・D社との取引、というように完全に分ける。

絶対にやってはいけないこと

最も危険なのは、実質的に同じ業務であるにもかかわらず、請求書の発行元だけを個人と法人に振り分けるといった形式的な分離です。

必ず、事業の実態として明確に区分けしてください。
その証拠として、事業ごとに契約書を交わし、請求書を発行し、事業用の銀行口座も完全に分けて管理することが極めて重要です。

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マイクロ法人設立に関するよくある質問

個人事業主からマイクロ法人へのステップアップを検討する際、多くの方が疑問に思う点をQ&A形式でまとめました。

設立前にこれらの疑問を解消し、スムーズな法人成りを目指しましょう。

資本金はいくらにすればいいか

会社法上、資本金は1円からでも法人を設立できます。
しかし、現実的には事業の初期費用や当面の運転資金を考慮して設定することが重要です。

資本金は、会社の体力や信用度を示す指標の一つとなります。資本金が極端に少ないと、金融機関からの融資審査や取引先との契約において不利になる可能性があります。
一つの目安として、設立後3ヶ月から6ヶ月程度の運転資金(役員報酬、事務所家賃、その他経費)を資本金として準備すると、当面の資金繰りに余裕が生まれるでしょう。

また、注意点として、資本金を1,000万円以上に設定すると、設立1期目から消費税の課税事業者となります。
特別な理由がない限り、資本金は1,000万円未満に設定するのが一般的です。これにより、最大2年間の消費税免税メリットを享受できます。

赤字でも税金はかかるのか

結論から言うと、法人が赤字であっても支払う義務のある税金が存在します

まず、法人税は会社の利益(所得)に対して課される税金です。
そのため、事業が赤字であれば法人税は発生しません。
しかし、法人には「法人住民税」の納税義務があり、これは「法人税割」と「均等割」の2つで構成されています。

このうち「均等割」は、法人がその地方自治体に存在すること自体に対して課される会費のような税金です。
したがって、会社の所得が赤字であっても、資本金の額や従業員数に応じて必ず支払わなければなりません。
金額は自治体によって異なりますが、最低でも年間で合計7万円程度(都道府県民税2万円+市町村民税5万円)がかかります。

家族を役員にすることはできるか

はい、配偶者や親族など、家族をマイクロ法人の役員にすることは可能です。
家族を役員にして役員報酬を支払うことで、所得を分散させ、世帯全体で見たときの所得税や住民税を抑える効果が期待できます。

ただし、家族を役員にする際には、特に社会保険と役員報酬の金額設定において注意が必要です。

役員報酬と社会保険の扶養

家族を役員にして役員報酬を支払う場合、その金額や勤務形態によっては、原則としてその家族も社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます
これまで配偶者の社会保険の扶養(国民年金第3号被保険者)に入っていた場合、扶養から外れて自身で社会保険料を納める必要が出てきます。

役員報酬の金額によっては、社会保険料の負担が所得分散による節税メリットを上回ってしまい、結果的に世帯全体の手取り額が減少するケースもあります。
家族を役員にする際は、事前に社会保険料の負担額をシミュレーションすることが不可欠です。

役員報酬の金額設定

家族に支払う役員報酬は、その役員の業務内容や責任の度合いに見合った、社会通念上妥当な金額でなければなりません。
例えば、全く業務に関与していない家族に高額な役員報酬を支払っていると、税務調査の際に「実態のない経費」とみなされ、経費(損金)として認められない可能性があります。

役員報酬が不相当に高額であると判断された場合、その超過分は損金不算入となり、追徴課税の対象となるリスクがあるため、業務の実態に基づいた適切な金額設定を心がけましょう。

まとめ

本記事では、個人事業主とマイクロ法人の違いを、税金、社会保険、コストなど7つの観点から徹底的に比較解説しました。

結論として、事業所得が増加し、社会保険料と税金の負担を大きく軽減したい場合には、マイクロ法人の設立が非常に有効な選択肢となります。
その最大の理由は、マイクロ法人から自身へ役員報酬を支払うことで、社会保険料を最適化できる点と、給与所得控除という大きな控除を活用して所得税を抑えられる点にあります。

一方で、マイクロ法人の設立・維持にはコストと事務負担が伴います。

事業を始めたばかりで所得がまだ安定していない方や、手続きの手間を最小限にしたい方は、まずは個人事業主として事業を運営する方がシンプルで良いでしょう。

ご自身の現在の所得状況や将来の事業計画、そしてどれだけの事務負担を許容できるかを総合的に判断し、最適な事業形態を選択することが成功への鍵です。

マイクロ法人の設立を具体的に検討する際には、役員報酬の最適な金額設定や設立のタイミングなど、専門的な判断が必要になるため、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

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一度きりの人生、
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