「夫婦やパートナーと2人でマイクロ法人を設立し、社会保険料の最適化や節税効果を最大化したい」とお考えではありませんか。
2人での法人経営は、所得を分散できるなど一人では得られない大きなメリットがある一方で、役員報酬の設定や役割分担、社会保険の加入ルールなどを誤ると、かえって損をしたり、人間関係のトラブルに発展したりするリスクも潜んでいます。
本記事では、夫婦2人でマイクロ法人を経営するメリット・デメリットを徹底解説し、失敗しないために絶対に押さえるべき5つの注意点を具体的に紹介します。
さらに、設立手続きの全ステップも分かりやすくガイドするため、この記事を最後まで読めば、2人でのマイクロ法人設立に関する不安が解消され、そのメリットを最大限に引き出すための具体的な方法がすべてわかります。
マイクロ法人を2人で設立するメリットとは
夫婦やパートナーなど、2人でマイクロ法人を設立・経営することには、個人事業主や1人だけの法人経営にはない、特有のメリットが存在します。
特に、社会保険料の最適化や税負担の軽減といった金銭的な恩恵は非常に大きく、事業の持続的な成長と家計の安定に直結します。
ここでは、2人でマイクロ法人を設立する3つの大きなメリットを具体的に解説します。
社会保険料を最適化できる
2人でマイクロ法人を設立する最大のメリットは、世帯全体の社会保険料を大幅に削減できる可能性があることです。
これは、日本の社会保険制度の仕組みをうまく活用することで実現します。
例えば、夫婦の一方が個人事業主として高い所得を得ており、もう一方がその事業を手伝っているケースを考えてみましょう。
個人事業主のままだと、夫婦それぞれが国民健康保険と国民年金に加入する必要があり、所得が増えるほど保険料も高額になります。
しかし、マイクロ法人を設立し、事業を手伝っていた側(例:妻)が法人の役員となり、社会保険の加入要件を満たす最低限の役員報酬(例:月額45,000円)を受け取るようにします。
そして、高所得の側(例:夫)は個人事業主を継続し、妻の社会保険の扶養に入るのです。
これにより、以下のような劇的な変化が起こります。
| 個人事業主のままの場合 | マイクロ法人を活用した場合 | |
|---|---|---|
| 夫 | 国民健康保険(高額) + 国民年金 | 社会保険の扶養に入るため、保険料負担が0円 |
| 妻 | 国民健康保険(高額) + 国民年金 | 健康保険 + 厚生年金(最低限の報酬のため低額) |
| 世帯合計 | 非常に高額 | 大幅に削減可能 |
このスキームを活用することで、夫は国民健康保険料の負担がなくなり、世帯全体で見ると年間数十万円から百万円以上の社会保険料を削減できるケースも少なくありません。
将来受け取れる年金額は変動しますが、手元に残るキャッシュフローを最大化できるという点で、非常に強力なメリットと言えるでしょう。
所得を分散して節税効果を高める
日本の所得税は、所得が高いほど税率も高くなる「累進課税制度」が採用されています。
そのため、1人に所得が集中すると、高い税率が適用されてしまい、税負担が重くなります。
マイクロ法人を2人で経営する場合、法人から夫婦それぞれに役員報酬を支払うことで、所得を分散できます。
これにより、一人ひとりの所得金額が下がり、より低い税率が適用されるため、世帯全体での所得税・住民税を軽減することが可能です。
さらに、役員報酬は給与所得として扱われるため、それぞれが「給与所得控除」という経費のようなものを差し引くことができます。
これも大きな節税メリットです。
| 夫1人に所得1,000万円が集中 | 夫と妻に500万円ずつ所得を分散 | |
|---|---|---|
| 適用税率 | 高い税率が適用される | それぞれに低い税率が適用される |
| 給与所得控除 | 1人分のみ | 2人分適用される |
| 世帯の納税額 | 高額 | 軽減される |
このように、所得を2人に分けるだけで、適用される税率が下がり、かつ控除額は2倍になるため、手取り収入を増やす効果が期待できます。
どのくらいの金額で報酬を設定すれば最も効果的かは、事業全体の利益や個人の所得控除の状況によって変わるため、税理士などの専門家と相談しながらシミュレーションすることをおすすめします。
夫婦で役員報酬を受け取れる
個人事業主が家族に給与を支払う場合、「青色事業専従者給与」という制度を利用しますが、これには事前に税務署への届出が必要であったり、仕事内容に見合った適正な金額でなければならないといった制約があります。
一方、法人であれば、夫婦それぞれが役員として、その貢献度に応じて自由に役員報酬を設定できます(社会通念上、不相当に高額でない限り)。
これにより、それぞれの頑張りを正当に評価し、収入として反映させることが可能です。
夫婦それぞれが安定した収入を得ることで、個人の財産形成(iDeCoやNISAなど)をそれぞれが進めやすくなったり、住宅ローンを組む際に夫婦の収入を合算して審査を受けられたりと、家計の選択肢が広がります。
また、支払った役員報酬は法人の経費(損金)として計上できるため、法人の利益を圧縮し、法人税の節税にも直接つながります。
マイクロ法人を夫婦2人で経営するデメリットと対策

夫婦でマイクロ法人を設立することは、社会保険料の最適化や所得分散による節税など、多くのメリットが期待できます。
しかし、身近な関係だからこそ生じる特有のデメリットやリスクも存在します。
事前にこれらの課題を理解し、適切な対策を講じておくことが、事業の成功と円満な夫婦関係を両立させるための鍵となります。
ここでは、夫婦2人でマイクロ法人を経営する際に直面しがちな3つのデメリットと、その具体的な対策について詳しく解説します。
経営方針で対立するリスク
夫婦という近しい関係性は、時としてビジネス上の意思決定において裏目に出ることがあります。
遠慮がないために意見がストレートにぶつかり、感情的な対立に発展しやすいのです。事業の方向性、資金の使い道、日々の業務の進め方など、ささいなことから大きな問題まで、対立の種は尽きません。
一度関係がこじれると、事業の停滞はもちろん、家庭内の雰囲気まで悪化させてしまうリスクがあります。
【対策】
このリスクを回避するためには、設立前にビジネスパートナーとしてのルールを明確に定めることが極めて重要です。
具体的には、以下の対策を講じましょう。
- 事業計画の共有と合意形成:事業の目的、目標、長期的なビジョンについて徹底的に話し合い、双方合意の上で事業計画書として明文化しておきましょう。判断に迷った際の道しるべになります。
- 役割と責任範囲の明確化:どちらがどの業務の最終的な責任を持つのかを明確に定めます。例えば、「営業に関する最終決定は夫」「経理・財務に関する最終決定は妻」のように、担当領域を分けることで、不要な衝突を避けられます。
- 定期的な経営会議の実施:週に一度、月に一度など、定期的に「経営会議」の時間を設けます。ここでは夫婦としてではなく、経営者として冷静に事業の状況を報告し、課題について議論します。感情論ではなく、データに基づいた客観的な話し合いを心がけましょう。
- 意見が割れた際の解決ルール:どうしても意見がまとまらない場合の最終的な決定方法をあらかじめ決めておきます。「最終的には代表取締役の判断に従う」「外部の専門家(税理士など)の意見を参考にする」といったルールがあれば、対立が長引くのを防げます。
プライベートとの線引きが難しい
夫婦で事業を行うと、仕事とプライベートの境界線が曖昧になりがちです。
自宅で仕事をしている場合、食事中や休日でもつい仕事の話をしてしまい、24時間365日仕事モードから抜け出せなくなることがあります。
これにより、心身が休まらずストレスが蓄積したり、夫婦の会話が仕事の愚痴や相談ばかりになり、関係性が悪化したりするケースも少なくありません。
【対策】
意識的にオンとオフを切り替えるための工夫が必要です。
物理的・時間的なルールを設けることで、健全なワークライフバランスを保ちましょう。
- 物理的な空間の分離:自宅兼事務所の場合でも、仕事専用の部屋やスペースを確保し、「その場所では仕事に集中する」「リビングでは仕事の話をしない」といったルールを徹底します。
- 時間的なルールの設定:「平日の夜9時以降と休日は、緊急時を除いて仕事の話はしない」「月に一度は仕事と無関係のデートをする」など、意識的に仕事から離れる時間を作りましょう。
どちらか一方が扶養から外れる場合がある
マイクロ法人設立の大きな目的の一つが「社会保険料の最適化」ですが、これを実現する過程で、これまで配偶者の扶養に入っていた側が扶養から外れるケースがほとんどです。
例えば、会社員の夫の扶養(第3号被保険者)に入っていた妻が、マイクロ法人の役員となって役員報酬を受け取ると、社会保険への加入義務が発生し、扶養から外れます。
これにより、世帯全体で新たに社会保険料(または国民健康保険料・国民年金保険料)の負担が発生することを理解しておく必要があります。
【対策】
この変更による家計への影響を正確に把握し、最適な選択をするためには、事前のシミュレーションが不可欠です。
まず、扶養に入っている現状と、マイクロ法人を設立して扶養から外れた場合の社会保険料負担がどのように変わるのかを比較検討しましょう。
| 扶養に入っている場合(法人設立前) | マイクロ法人設立後(扶養から外れる場合) | |
|---|---|---|
| 夫 | 会社員(健康保険・厚生年金に加入) | 個人事業主(国民健康保険・国民年金に加入) |
| 妻 | 夫の扶養(第3号被保険者) ※保険料負担なし | マイクロ法人の役員(健康保険・厚生年金に加入) ※役員報酬に応じた保険料負担が発生 |
| 世帯全体の保険料負担 | 夫の給与から天引きされる分のみ | 夫の国民健康保険料・国民年金保険料 + 妻の役員報酬から天引きされる社会保険料 |
上記の表は一例ですが、法人設立によって世帯全体での保険料負担額がどう変化するかが見えてきます。
役員報酬をいくらに設定すれば、社会保険料の負担を抑えつつ、節税メリットを最大化できるのか。
そのためには、税理士や社会保険労務士といった専門家に相談し、世帯全体の手取り額が最大になる役員報酬の金額や事業所得のバランスをシミュレーションしてもらうことを強くお勧めします。
専門家のアドバイスを受けることで、将来の年金受給額への影響なども含めた、長期的な視点での最適な判断が可能になります。
失敗しないための5つの注意点

夫婦でマイクロ法人を経営することは、税金や社会保険料の面で大きなメリットがあります。
しかし、その一方で、夫婦という特別な関係だからこそ生じやすいトラブルも存在します。
ビジネスを円滑に進め、良好な関係を維持するためにも、設立前に必ず押さえておきたい5つの注意点を詳しく解説します。
注意点1 役員構成と役割分担を明確にする
「夫婦だから阿吽の呼吸で大丈夫」という考えは禁物です。
ビジネスパートナーとして、役員構成とそれぞれの役割・責任範囲を文書で明確にすることが、将来のトラブルを防ぐ第一歩となります。
代表取締役は1人に絞るべきか
法律上、代表取締役を2人(共同代表)にすることも可能です。
しかし、マイクロ法人のような小規模な組織では、意思決定のスピードを重視し、代表取締役は1人に絞ることを強く推奨します。
代表取締役が2人いると、銀行融資の契約や重要な許認可の申請など、あらゆる場面で2人分の署名・捺印が必要となり、手続きが煩雑になります。
また、万が一意見が対立した場合、経営が停滞してしまうリスクも抱えることになります。
どちらか一方を代表取締役とし、もう一方は取締役や監査役といった役職に就くのが現実的でスムーズな選択と言えるでしょう。
業務の責任範囲を決めておく
どちらがどの業務を担当するのか、責任の所在を明確にしましょう。
「言った・言わない」「やってくれると思っていた」といった曖昧さが、夫婦間の亀裂を生む原因になります。
以下のように、具体的な業務内容をリストアップし、担当者を決めておくことが重要です。
| 業務分類 | 具体的な業務内容 | 担当者(例) |
|---|---|---|
| 営業・マーケティング | 新規顧客開拓、Webサイト・SNS運用、広告出稿、既存顧客フォロー | 夫 |
| 実務・制作 | 商品開発、サービス提供、納品管理 | 妻 |
| 経理・財務 | 請求書発行、入金確認、経費精算、記帳、税理士との連携 | 妻 |
| 総務・法務 | 契約書管理、社会保険手続き、備品管理 | 夫 |
これらの役割分担は、定款作成時や設立後の社員総会(株主総会)の議事録として書面に残しておくと、後々の認識齟齬を防ぐことができます。
注意点2 役員報酬の金額設定を慎重に行う
役員報酬は、マイクロ法人の節税効果を最大化するための最重要項目です。
法人の利益と個人の所得、そして社会保険料のバランスを総合的に考慮し、戦略的に金額を決定する必要があります。
社会保険料の負担をシミュレーションする
役員報酬の額は、社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の金額に直接影響します。
マイクロ法人のメリットを活かすには、役員報酬を社会保険料の負担が最も軽くなる水準に設定するのが基本です。
一般的には、健康保険料・厚生年金保険料の最低等級となる月額報酬(標準報酬月額)に設定するケースが多く見られます。
例えば、東京都の協会けんぽ(令和6年度)の場合、標準報酬月額の最低等級は健康保険が58,000円、厚生年金保険が88,000円です。
この範囲で役員報酬を設定することで、社会保険料の負担を最小限に抑えることができます。
夫婦2人とも役員になる場合は、それぞれでシミュレーションを行い、世帯全体での最適額を算出しましょう。
所得税・住民税への影響を考慮する
役員報酬は個人の給与所得となるため、所得税や住民税の課税対象となります。
役員報酬を低く設定すれば個人の税負担は軽くなりますが、その分、法人の利益が残りやすくなり法人税の負担が増える可能性があります。
逆に役員報酬を高くすれば、法人の利益を圧縮できますが、個人の税率が上がってしまいます。
法人税率と個人の所得税率のバランスを見ながら、世帯全体で手取りが最大化するポイントを探ることが重要です。
この計算は非常に複雑なため、税理士などの専門家に相談し、複数のパターンでシミュレーションしてもらうことをお勧めします。
注意点3 社会保険の加入ルールを正しく理解する
法人を設立すると、たとえ社長1人であっても社会保険への加入が法律で義務付けられています。
夫婦2人で役員になる場合、それぞれが被保険者となり、個別に社会保険に加入手続きを行い、保険料を納付する必要があります。
よくある誤解が「配偶者の扶養に入れる」という考え方です。
個人事業主の配偶者が国民健康保険の被扶養者になるのとは異なり、法人の役員として報酬を受け取る場合、その金額にかかわらず原則として扶養に入ることはできません。
例えば、妻が代表取締役で夫が役員の場合、夫も自身の役員報酬に基づいた社会保険料を納める必要があります。
これまで夫が妻の扶養に入っていた場合は、世帯全体の社会保険料負担が大きく変わる可能性があるため、設立前に必ず確認しておきましょう。
注意点4 経費のルールを夫婦で共有する
法人経営では、事業に関連する支出を経費として計上することで、課税対象となる所得を減らすことができます。
しかし、プライベートな支出と事業用の支出の線引きが曖昧になりがちな夫婦経営では、経費のルールを明確に共有しておくことが不可欠です。
特に問題になりやすいのが、自宅兼事務所の家賃や水道光熱費、通信費などを経費にする「家事按分」です。
事業で使用している面積や時間など、客観的で合理的な基準に基づいて按分割合を決め、その計算根拠とともに夫婦で共有・記録しておく必要があります。
税務調査で指摘されないためにも、「これは経費になるだろう」というどんぶり勘定は絶対に避け、明確なルールを作りましょう。
交通費や交際費なども同様に、事業目的を明確に説明できるものだけを経費とする意識を徹底することが大切です。
注意点5 解散や離婚時の取り決めをしておく
設立時には考えたくないことかもしれませんが、ビジネスのリスク管理として、万が一事業がうまくいかなくなった場合(解散)や、夫婦関係が破綻した場合(離婚)のルールを事前に決めておくことは極めて重要です。
これらの取り決めは、会社の根本規則である「定款」や、株主間での契約書である「株主間契約」に明記しておくのが最も確実な方法です。
具体的には、以下のような項目について話し合い、文書化しておくべきです。
- 株式の取り扱い:離婚時に相手方の持つ株式をどうするか(一方が買い取る、など)。株式の評価方法も決めておくとスムーズです。
- 財産の分配:会社名義の資産(現金、不動産、車両など)をどのように分配するか。
- 経営からの離脱:一方が経営から離れる場合の退職金の規定や、その後の競業避止義務(同種の事業を始めない約束)など。
特に株式を夫婦で50%ずつ保有する形は、意見が対立した際に経営が完全にストップしてしまう「デッドロック」状態に陥るリスクが非常に高いため、避けるべきです。
どちらかが過半数を保有するなど、最終的な意思決定権の所在を明確にしておくことが、健全な会社経営の基盤となります。
これらのデリケートな問題については、弁護士や司法書士といった専門家のアドバイスを受けながら進めることをお勧めします。
夫婦2人でマイクロ法人を設立する手続き完全ガイド

夫婦2人でマイクロ法人を設立することを決めたら、次はいよいよ具体的な手続きに進みます。
専門家に依頼する方法もありますが、手順を理解すれば自分たちでも設立は可能です。
ここでは、会社の基本事項の決定から登記後の届出まで、5つのステップに分けて設立手続きの全貌を分かりやすく解説します。
特に、費用を抑えられる合同会社を念頭に置いて説明を進めます。
ステップ1 会社の基本事項を決める
法人設立の第一歩は、会社の骨格となる基本事項を決めることです。
これらは後のステップで作成する「定款」に記載する重要な情報となります。
夫婦でしっかりと話し合い、以下の項目を決定しましょう。
| 決定事項 | 決定する内容とポイント |
|---|---|
| 会社形態 | 株式会社か合同会社かを選択します。 夫婦2人のマイクロ法人では、設立費用が安く、経営の自由度が高い「合同会社」が選ばれるのが一般的です。 株式会社は約25万円、合同会社は約10万円から設立可能です。 |
| 商号(会社名) | 会社の顔となる名前です。 使える文字(漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、アラビヤ数字など)にはルールがあります。 同一住所で同一の商号は使えないため、法務局のオンラインシステムなどで事前に調査しておくと安心です。 |
| 事業目的 | その会社が何を行うのかを具体的に記載します。 許認可が必要な事業は、その要件を満たす文言を入れる必要があります。 将来的に行う可能性のある事業も、後から追加すると変更登記費用がかかるため、あらかじめ幅広く記載しておくのがおすすめです。 |
| 本店所在地 | 会社の住所を決めます。 自宅の住所を本店にすることも可能ですが、賃貸物件の場合は法人登記が可能か事前に管理規約を確認しましょう。 バーチャルオフィスを利用する方法もあります。 |
| 資本金の額 | 資本金は1円から設定可能ですが、会社の体力や信用度を示す指標にもなります。 設立後すぐに必要となる運転資金(数ヶ月分)を目安に、無理のない範囲で設定しましょう。 一般的には10万円~100万円程度で設立するケースが多いです。 |
| 役員構成 | 夫婦2人で経営する場合の役員構成を決めます。 合同会社では「業務執行社員」となり、その中から「代表社員」を定めます。 株式会社の場合は「取締役」となり、「代表取締役」を1名定めます。 |
| 事業年度(決算期) | 会社の会計期間を決めます。 決算月の2ヶ月後が法人税の申告・納付期限となるため、夫婦の繁忙期を避けて設定するのが賢明です。 また、設立日から最も遠い月を決算月にすると、消費税の免税期間を最大限活用できるメリットがあります。 |
ステップ2 定款の作成と認証
会社の基本事項が決まったら、次はそのルールをまとめた「定款(ていかん)」を作成します。
定款は「会社の憲法」とも呼ばれる非常に重要な書類です。
定款には、ステップ1で決めた商号、事業目的、本店所在地などの「絶対的記載事項」のほか、役員報酬の決定方法などの「相対的記載事項」、事業年度などの「任意的記載事項」を盛り込みます。
法務局のウェブサイトにあるテンプレートや、市販のソフトウェアを活用して作成できます。
作成した定款は、会社形態によって手続きが異なります。
- 株式会社の場合:公証役場で公証人による「定款認証」が必要です。認証手数料として約5万円がかかります。
- 合同会社の場合:公証役場での認証は不要です。作成した定款をそのまま保管します。この手軽さが合同会社のメリットの一つです。
なお、紙の定款を作成すると収入印紙代として4万円が必要ですが、「電子定款」で作成すればこの印紙代は不要になります。
設立費用を抑えたい場合は、電子定款での作成を検討しましょう。
ステップ3 資本金の払い込み
定款の作成(株式会社の場合は認証)が終わったら、定款で定めた資本金を払い込みます。
この時点ではまだ法人口座は開設できないため、発起人(合同会社の場合は設立時社員)となる夫婦どちらかの個人口座に振り込むのが一般的です。
手続きの流れは以下の通りです。
- 定款で定めた出資額を、発起人個人の銀行口座に振り込む。(通帳に出資者名と金額が記録されるようにします)
- 振り込みが完了したら、その通帳の以下のページをコピーする。
- 通帳の表紙
- 支店名や口座番号、名義人が記載されている見開きページ
- 資本金の振り込みが記帳されたページ
- 上記のコピーと合わせて、資本金の「払込証明書」を作成します。この書類一式が、資本金が正しく払い込まれたことを証明する証拠となります。
ステップ4 法人登記の申請
いよいよ法務局へ会社の設立登記を申請します。
法務局に登記申請書を提出した日が、その会社の設立日となります。申請は、本店所在地を管轄する法務局で行います。
申請方法は、窓口持参、郵送、オンライン申請(GビズIDプライムアカウントが必要)から選べます。
登記申請には、主に以下の書類が必要です。
会社形態によって若干異なりますので、事前に法務局のウェブサイトで確認しましょう。
| 主な必要書類(合同会社の例) | 概要 |
|---|---|
| 設立登記申請書 | 法務局のウェブサイトからダウンロードできる申請書の様式です。 |
| 定款 | ステップ2で作成した定款です。 |
| 代表社員の就任承諾書 | 代表社員に就任することを承諾したことを示す書類です。 |
| 社員全員の印鑑証明書 | 役員となる夫婦それぞれの印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)が必要です。 |
| 資本金の払込証明書 | ステップ3で作成した、通帳コピーと一体になった書類です。 |
| 印鑑届書 | 会社の実印(代表者印)を法務局に登録するための書類です。 |
また、登記申請時には「登録免許税」という税金を納付する必要があります。
この税額も会社形態によって異なり、合同会社の方が安く済みます。
- 株式会社:資本金額の0.7%(最低15万円)
- 合同会社:資本金額の0.7%(最低6万円)
申請後、不備がなければ1週間から10日ほどで登記が完了します。
登記が完了すると、会社の「登記事項証明書(登記簿謄本)」や「印鑑証明書」が取得できるようになります。
これらの書類は、法人口座の開設や各種届出に必要です。
ステップ5 設立後の各種届出
法務局での登記が完了しても、手続きは終わりではありません。
事業を開始するためには、税務署や年金事務所など、さまざまな行政機関への届出が必要です。
提出期限が短いものもあるため、登記が完了したら速やかに行いましょう。
夫婦2人のマイクロ法人で必要となる主な届出は以下の通りです。
| 提出先 | 主な届出書類 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 税務署 | ・法人設立届出書 ・青色申告の承認申請書 ・給与支払事務所等の開設届出書 ・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 設立後2ヶ月以内(青色申告は3ヶ月以内または最初の事業年度終了日のいずれか早い方) |
| 都道府県税事務所 市町村役場 | ・法人設立届出書 | 自治体により異なる(設立後15日~2ヶ月以内) |
| 年金事務所 | ・健康保険、厚生年金保険 新規適用届 ・健康保険、厚生年金保険 被保険者資格取得届(夫婦2人分) | 設立(事実発生)から5日以内 |
特に「青色申告の承認申請書」は、欠損金の繰越控除など税制上の優遇を受けるために必須の届出です。
また、年金事務所への社会保険の加入手続きは、法人の義務であり、期限も短いため最優先で対応しましょう。
これらの届出をすべて終えて、ようやくマイクロ法人として本格的に事業をスタートできる状態になります。
まとめ
本記事では、夫婦2人でマイクロ法人を設立・経営する際のメリット、デメリット、そして失敗しないための5つの注意点と設立手続きについて詳しく解説しました。
夫婦でマイクロ法人を経営する最大のメリットは、社会保険料の負担を最適化し、所得を分散させることで、世帯全体の手取り額を最大化できる点にあります。
しかし、その恩恵を最大限に受けるためには、夫婦という近しい関係だからこそ生じやすいリスクへの対策が不可欠です。
特に、社会保険料に直結する「役員報酬の金額設定」、経営を円滑に進めるための「役割分担の明確化」、そして万が一に備えた「解散や離婚時の取り決め」は、設立前に必ず夫婦で話し合っておくべき重要なポイントです。
これらのルールを曖昧にしたまま経営を始めると、後々のトラブルの原因となりかねません。
マイクロ法人の設立は、将来の資産形成において強力な手段となり得ます。
本記事で紹介した注意点をしっかりと押さえ、必要であれば税理士や司法書士などの専門家にも相談しながら、夫婦で協力して計画的に準備を進めることが成功への鍵となります。
