個人事業主やフリーランスの方で、節税を目的として「マイクロ法人」の設立を検討する際、「株式会社と合同会社のどちらを選ぶべきか」という疑問に直面する方は少なくありません。
本記事では、マイクロ法人設立における株式会社と合同会社の違いを、設立費用・税金・社会保険料といったコスト面から、社会的信用度や運営の手間まで、あらゆる角度から徹底的に比較解説します。
結論からお伝えすると、将来的な事業拡大や外部からの資金調達、高い社会的信用性を重視するなら「株式会社」、設立・運営コストを最大限に抑え、迅速かつ柔軟に事業を始めたいなら「合同会社」がおすすめです。
この記事を最後まで読めば、それぞれのメリット・デメリットを完全に理解し、ご自身の事業計画や目的にとって最適な法人の形が明確になります。
マイクロ法人を設立するなら株式会社と合同会社どちらを選ぶべきか
個人事業主からの法人成りや、副業収入の節税対策として「マイクロ法人」の設立を検討しているものの、「株式会社」と「合同会社」のどちらを選ぶべきかで悩んでいませんか?
法人形態の選択は、設立時にかかる初期費用だけでなく、その後の税金や社会保険料の負担、運営の手間、さらには事業の将来性にまで大きな影響を及ぼす、非常に重要な決断です。
安易に「費用が安いから」という理由だけで選んでしまうと、将来的に資金調達で不利になったり、事業拡大の足かせになったりする可能性もゼロではありません。
逆に、ご自身の事業規模に合わない形態を選んでしまうと、無駄なコストや手間が発生し続けることにもなりかねません。
この記事では、マイクロ法人を設立する上で重要な判断基準となる「設立費用」「税金・社会保険」「社会的信用度」「運営コスト」などの観点から、株式会社と合同会社の違いを徹底的に比較・解説します。
最後までお読みいただくことで、あなたの事業計画や将来のビジョンに本当にマッチした法人形態がどちらなのか、明確な答えを導き出すことができるでしょう。
まずは結論!あなたの目的に合うのはどっち?
詳細な比較に入る前に、まずは結論からお伝えします。
どちらの法人形態が向いているかは、あなたが何を重視するかによって異なります。
以下の早見表で、ご自身の考えに近い方がどちらかを確認してみてください。
| 比較項目 | 株式会社がおすすめな人 | 合同会社がおすすめな人 |
|---|---|---|
| 重視するポイント | 社会的信用度や将来の事業拡大を最優先したい方。外部からの資金調達や上場も視野に入れている。 | 設立・運営コストを最小限に抑えたい方。迅速な意思決定と自由度の高い経営を求めている。 |
| 具体的な人物像 | 取引先や金融機関からの信頼性を高めたい将来的に従業員を雇用し、事業を大きくしたいベンチャーキャピタルなどから出資を受けたい「代表取締役」という肩書に魅力を感じる | とにかく早く、安く法人を設立したい役員の任期や決算公告の手間を省きたい自分一人、または家族経営で事業を行う利益の分配方法を自由に決めたい |
もしあなたが「信用度」や「将来性」を重視するなら株式会社、「コスト」や「手軽さ」を優先するなら合同会社が基本的な選択肢となります。
もちろん、これはあくまで大枠の判断基準です。次章以降で、この結論に至る根拠となる具体的な違いを一つひとつ詳しく解説していきます。
この記事でわかること:比較する5つの重要ポイント
本記事では、マイクロ法人設立における株式会社と合同会社の選択を後悔しないために、以下の5つの重要なポイントに絞って両者を比較していきます。
ご自身の事業にとってどのポイントが最も重要かを考えながら読み進めてみてください。
- 設立費用の違い:初期投資をどれだけ抑えられるか?
- 税金・社会保険料の違い:設立後のランニングコストにどう影響するか?
- 社会的信用度と資金調達の違い:ビジネスチャンスにどう関わるか?
- 運営コスト・手間の違い:法人維持の手間はどちらが少ないか?
- 意思決定と利益分配の自由度の違い:経営の柔軟性はどちらが高いか?
それでは、それぞれのポイントについて、具体的な金額や制度の違いを詳しく見ていきましょう。
マイクロ法人とは 節税の仕組みを簡単に解説

「マイクロ法人」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的にどのような法人を指すのでしょうか。
実は、マイクロ法人という言葉は会社法などの法律で定められた正式な用語ではありません。
一般的に、社長一人、あるいは家族だけで経営している、従業員のいない小規模な会社を指す俗称として使われています。
個人事業主が事業を拡大する過程で法人化する「法人成り」とは少し異なり、主に個人の資産管理や節税を目的として設立されるケースが多いのが特徴です。そのため、プライベートカンパニーとも呼ばれます。
では、なぜ多くの個人事業主やフリーランスが、手間とコストをかけてまでマイクロ法人を設立するのでしょうか。
その最大の目的は、税金と社会保険料の負担を最適化することによる、手取り収入の最大化にあります。
マイクロ法人を活用した節税・社会保険料最適化の仕組み
マイクロ法人を設立することで得られる最大のメリットは、個人事業主のままでは利用できない制度を活用できる点にあります。
ここでは、その中心となる3つの仕組みを詳しく解説します。
1. 所得の分散と給与所得控除の活用
マイクロ法人を設立する節税スキームの根幹は「所得の分散」です。
個人事業で得ていた所得を、「法人の所得」と「個人(社長)の給与所得」の2つに分けることで、トータルの税負担を軽減します。
個人事業主の場合、売上から経費を差し引いた「事業所得」の全額が課税対象となります。
所得税は累進課税のため、所得が増えれば増えるほど税率も高くなります。
一方、マイクロ法人を設立し、自身に役員報酬を支払う形にすると、その役員報酬は「給与所得」となります。
給与所得には、収入に応じて一定額を自動的に経費として差し引ける「給与所得控除」が適用されます。
これは、個人事業主にはない、給与所得者ならではの大きなメリットです。
例えば、年間500万円の所得がある個人事業主が、マイクロ法人から役員報酬として500万円を受け取る形に変えるだけで、給与所得控除(年間収入500万円の場合144万円)が適用され、課税所得を大幅に圧縮できるのです。
2. 社会保険料の負担を最適化
節税効果と並んで、あるいはそれ以上に大きなインパクトを持つのが社会保険料の最適化です。
個人事業主が加入する国民健康保険料は、前年の所得に応じて算出されるため、所得が増えると保険料も青天井で高くなっていきます。
自治体によっては年間100万円を超えるケースも珍しくありません。
一方、法人の役員は健康保険・厚生年金保険(協会けんぽなど)に加入します。
こちらの保険料は、役員報酬の金額(標準報酬月額)に基づいて決定されます。
つまり、役員報酬を社会保険料が最も安くなる金額(例えば月額6万円程度)に低く設定することで、社会保険料の負担を最小限に抑えることが可能です。
個人事業の所得はそのままに、マイクロ法人を設立して役員報酬を低く設定する。
この「二刀流」により、高い所得を得ながらも社会保険料の負担を劇的に軽減できるのが、マイクロ法人スキームの強力なメリットです。
| 項目 | 個人事業主 | マイクロ法人(役員) |
|---|---|---|
| 加入する保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金保険 |
| 保険料の基準 | 前年の総所得金額等 | 役員報酬額(標準報酬月額) |
| 保険料のコントロール | 所得に連動するため難しい | 役員報酬額の設定により可能 |
| 扶養の概念 | なし(家族一人ひとりが被保険者) | あり(被扶養者の保険料負担なし) |
3. 経費として認められる範囲の拡大
法人格を持つことで、個人事業主よりも経費として認められる範囲が広がります。
これにより、課税対象となる法人の所得をさらに圧縮できます。
- 自宅兼事務所の家賃:個人事業主では事業使用割合に応じた按分が必要ですが、法人名義で社宅契約を結ぶことで、より多くの割合を経費計上しやすくなります。
- 生命保険料:法人契約の生命保険であれば、保険の種類によって全額または一部を損金(法人の経費)として算入できます。個人の生命保険料控除よりも節税効果が高くなる場合があります。
- 出張手当(日当):社内で旅費規程を整備すれば、出張の際に役員へ支払う日当を非課税で支給できます。これは経費として計上できるため、法人税を抑えつつ、役員個人は所得税のかからないお金を受け取れるメリットがあります。
- 退職金:将来、役員を退任する際に退職金を支給できます。退職金は税制上非常に優遇されており(退職所得控除)、通常の給与として受け取るよりも税負担を大幅に軽減できます。
このように、マイクロ法人は「所得分散」「社会保険料の最適化」「経費範囲の拡大」という3つの柱を組み合わせることで、個人事業主のままでは実現できないレベルの節税を可能にする非常に有効な手段なのです。
マイクロ法人における株式会社と合同会社の比較一覧表

マイクロ法人を設立するにあたり、最初の大きな選択となるのが「株式会社」と「合同会社」のどちらの形態を選ぶかです。
設立費用や運営の手間、社会的信用度など、両者には明確な違いがあります。
ご自身の事業規模や将来のビジョンに合わせて最適な法人形態を選ぶために、まずは以下の比較一覧表で全体像を把握しましょう。
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立費用(法定費用) | 約20.2万円~ (電子定款の場合) | 約6万円~ (電子定款の場合) |
| 社会的信用度 | 一般的に高い 知名度があり、取引や採用、融資で有利になる傾向がある。 | 株式会社に比べると低い傾向があるが、近年は認知度が向上している。 |
| 資金調達の方法 | 金融機関からの融資に加え、株式発行による出資が可能。 | 金融機関からの融資が主。出資を受けるには社員になる必要があり、柔軟性に欠ける。 |
| 役員の任期 | 原則2年(非公開会社は最長10年まで伸長可能)。任期満了ごとに変更登記が必要。 | 任期なし。定款で定めることも可能だが、登記手続きの手間がない。 |
| 役員変更登記の費用 | 任期満了や役員交代の際に必要(登録免許税1万円~)。 | 役員の任期がないため、原則として不要。 |
| 決算公告の義務 | 義務あり (官報掲載の場合、費用は約7万円~) | 義務なし 運営コストを抑えられる。 |
| 意思決定機関 | 株主総会 (所有と経営が分離) | 原則として総社員の同意 (所有と経営が一致) |
| 利益の分配 | 出資額(株式の保有割合)に応じて分配される。 | 定款で自由に決めることが可能。貢献度などに応じて柔軟に分配できる。 |
| 税金・社会保険料 | 法人格による違いはない どちらの形態でも、法人税の税率や社会保険料の計算方法は同じ。節税の仕組みも共通。 | |
この表からわかるように、初期費用とランニングコストを徹底的に抑えたい場合は合同会社が非常に魅力的です。
一方、将来的な事業拡大、外部からの資金調達、BtoB取引における信用力を重視するなら株式会社に軍配が上がります。
マイクロ法人の場合、一人で設立・運営するケースが多いため、意思決定の迅速さや利益分配の自由度といった項目は、実務上の差が出にくいかもしれません。
最も重要なのは、設立費用と運営の手間、そして社会的信用度の3つのバランスをどう考えるかという点です。
また、税金や社会保険料については、株式会社でも合同会社でも法人であることに変わりはないため、役員報酬の設定による給与所得控除の活用や、社会保険への加入といったマイクロ法人設立の最大のメリットは、どちらの形態を選んでも享受することができます。
【徹底比較】マイクロ法人の株式会社と合同会社の違い

マイクロ法人を設立する際、多くの人が悩むのが「株式会社」と「合同会社」のどちらを選ぶかという点です。
両者には設立費用から運営の自由度、社会的信用度に至るまで、様々な違いがあります。
ここでは、それぞれの法人形態が持つ特徴を5つの重要な観点から徹底的に比較し、あなたの事業に最適な選択ができるよう詳しく解説します。
設立費用の違い
法人設立時にまず気になるのが、初期コストである設立費用です。
この点において、株式会社と合同会社には明確な差があります。
とにかく初期費用を抑えたいのであれば、合同会社が圧倒的に有利です。
具体的な費用の違いは以下の通りです。なお、現在は定款を電子データで作成する「電子定款」が主流であり、紙の定款で必要となる収入印紙代4万円が不要になるため、電子定款を前提とした費用で比較します。
株式会社の設立費用内訳
株式会社は、社会的信用度が高い一方で、設立手続きがやや複雑で費用も高めになります。
特に、公証役場での定款認証が必須となる点が合同会社との大きな違いです。
| 項目 | 費用目安 | 概要 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 150,000円〜 | 法務局で設立登記を行う際に納める税金です。資本金の額の0.7%ですが、最低でも15万円かかります。 |
| 定款認証手数料 | 30,000円〜50,000円 | 作成した定款が法的に有効であることを公証人に証明してもらうための手数料です。資本金の額によって変動します。 |
| 定款の謄本手数料 | 約2,000円 | 認証された定款の写し(謄本)を発行してもらうための費用です。1ページあたり250円程度かかります。 |
| 合計 | 約200,000円〜 | 司法書士などの専門家に依頼する場合は、別途手数料が発生します。 |
合同会社の設立費用内訳
合同会社は、株式会社に比べて設立手続きがシンプルで、費用を大幅に抑えられるのが最大の魅力です。
公証役場での定款認証が不要なため、その分の手数料がかかりません。
| 項目 | 費用目安 | 概要 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 60,000円〜 | 設立登記の際に納める税金です。資本金の額の0.7%ですが、最低でも6万円となります。 |
| 定款認証手数料 | 0円 | 合同会社は定款の作成は必要ですが、公証役場での認証は不要です。 |
| 合計 | 約60,000円〜 | 株式会社と同様、専門家に依頼する場合は別途手数料がかかります。 |
税金・社会保険料の違い
マイクロ法人を設立する大きな目的の一つが、税金と社会保険料の最適化です。
この点において、法人形態による有利・不利はあるのでしょうか。
結論から言うと、法人税率や社会保険の加入義務といった基本的な制度において、株式会社と合同会社に違いはありません。
どちらの形態を選んでも、マイクロ法人の節税メリットを同様に享受できます。
役員報酬と給与所得控除の活用
マイクロ法人の節税の核となるのが「給与所得控除」です。
個人事業主の所得はそのまま課税対象となりますが、法人から役員報酬(給与)として受け取ることで、給与所得控除が適用され、課税所得を圧縮できます。
この仕組みは、株式会社の役員であっても、合同会社の社員(役員)であっても全く同じように利用可能です。
社会保険料の負担
法人を設立すると、社長一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられます。
役員報酬を適切な金額に設定することで、個人事業主時代に加入していた国民健康保険や国民年金よりも、年間の社会保険料負担を軽減できる可能性があります。
この社会保険の加入義務や保険料の計算方法についても、株式会社と合同会社で制度上の違いは一切ありません。
社会的信用度と資金調達の違い
事業を運営していく上で、取引先や金融機関からの「見え方」は非常に重要です。
社会的信用度や資金調達のしやすさにおいては、両者に明確な違いが現れます。
金融機関や取引先からの見え方
一般的に、社会的信用度は株式会社の方が高いと認識されています。
株式会社は歴史が古く、会社法で厳格なルールが定められているため、組織としてしっかりしているというイメージを持たれやすい傾向にあります。
特に、大手企業との取引や、金融機関からのプロパー融資(信用保証協会の保証を付けない融資)を検討する際には、株式会社の方が有利に働く可能性があります。
ただし、マイクロ法人のような小規模なビジネスにおいては、法人形態そのものよりも、代表者個人の経歴や信用情報、事業計画の具体性などがより重視されるため、合同会社だからといって一概に不利になるわけではありません。
出資の受けやすさ
将来的に事業を拡大し、外部から資金を調達したいと考えている場合、この違いは非常に重要になります。
- 株式会社:株式を発行することで、広く一般から出資を募ることが可能です。「所有(株主)」と「経営(取締役)」が分離できるため、経営に関与しない純粋な投資家からの出資を受け入れやすい構造です。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達を目指すなら、株式会社一択と言えるでしょう。
- 合同会社:原則として「出資者=会社の経営者(業務執行社員)」となります。そのため、外部から出資を受けるには、その出資者にも経営に参加してもらう必要があり、手続きが複雑になります。第三者からの大規模な資金調達には不向きな形態です。
運営コスト・手間の違い
設立時だけでなく、法人を維持していく上でのランニングコストや手間にも違いがあります。
この点では、合同会社の方がシンプルで低コストです。
役員任期と変更登記
- 株式会社:役員(取締役・監査役など)には任期があります。非公開会社の場合、最長で10年まで伸長できますが、任期が満了するたびに、たとえ同じ人が再任(重任)する場合でも、法務局で役員変更登記の手続きが必要です。この登記には登録免許税(資本金1億円以下なら1万円)と、司法書士に依頼する場合はその報酬がかかります。
- 合同会社:役員にあたる「社員」には任期という概念がありません。そのため、定期的な役員変更登記が不要で、その分のコストと手間を削減できます。
決算公告の義務
- 株式会社:毎事業年度の終了後、定時株主総会の終結後に、貸借対照表などの決算内容を公告する義務があります。公告方法は官報、日刊新聞紙、電子公告のいずれかですが、最も安価な官報でも掲載に約6万円程度の費用がかかります。
- 合同会社:決算公告の義務がありません。これにより、毎年発生する公告費用と手続きの手間を省くことができます。
このように、運営面での手間やコストを考えると、合同会社の方が負担は軽いと言えます。
意思決定と利益分配の自由度の違い
会社の基本的なルールである意思決定の方法や、稼いだ利益の分け方にも違いがあります。
特に複数人で事業を行う場合に重要なポイントです。
- 株式会社:原則として「1株1議決権」であり、出資額(保有株式数)に応じて議決権の大きさが決まります。利益の配当も、基本的には出資比率に応じて行われます。所有と経営の分離が原則です。
- 合同会社:定款で自由にルールを定めることができます。例えば、出資額は少なくても、事業に不可欠なスキルやノウハウを持つ人の議決権を大きくしたり、利益を多く分配したりといった柔軟な設計が可能です。出資比率にとらわれない、実態に即した自由な組織運営ができるのが大きな特徴です。
ただし、マイクロ法人の多くは「一人社長」として設立されるため、この違いが問題になるケースは少ないかもしれません。
しかし、将来的にパートナーと共同で事業を行う可能性があるのであれば、合同会社の自由度の高さは大きなメリットになり得ます。
マイクロ法人で株式会社を選ぶメリット・デメリット

マイクロ法人を設立する際、株式会社という形態を選ぶことには、他の法人形態にはない特有のメリットと、考慮すべきデメリットが存在します。
特に、個人事業主からのステップアップや、将来的な事業拡大を見据えている方にとって、これらの点を理解しておくことは極めて重要です。
ここでは、マイクロ法人という小規模な事業形態の観点から、株式会社を選択する際の光と影を詳しく解説します。
株式会社のメリット
株式会社が持つ最大の強みは、その圧倒的な社会的信用度です。
その他にも、資金調達の柔軟性や事業承継のしやすさなど、将来を見据えたメリットが多く存在します。
1. 社会的信用度が高い
株式会社は、法人形態の中で最も知名度が高く、厳格な設立手続きや情報公開(決算公告)が法律で義務付けられていることから、取引先や金融機関、顧客に対して高い信頼性を与えることができます。
マイクロ法人のような小規模なビジネスであっても、この信用力は大きなアドバンテージとなります。
- BtoB取引での有利性:大手企業の中には、取引先の与信審査基準として「株式会社」であることを条件としている場合があります。株式会社であれば、新規取引の口座開設がスムーズに進む可能性が高まります。
- 金融機関からの融資:日本政策金融公庫からの創業融資や、制度融資を申し込む際に、合同会社と比較して法人格としての信頼性が評価され、審査で有利に働くことがあります。
- 人材採用への好影響:求職者にとって「株式会社」という名称は、安定性や安心感の象徴と映ることが多く、小規模ながらも優秀な人材を確保しやすくなる可能性があります。
2. 資金調達の方法が多様
マイクロ法人の段階ではあまり現実的ではないかもしれませんが、将来的に事業を拡大するフェーズを見据えた場合、株式会社の資金調達の柔軟性は大きな魅力です。
株式会社は株式を発行することで、外部の投資家から出資を募ることができます。
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達、あるいはクラウドファンディングといった多様な選択肢が生まれます。
合同会社の「社員」が出資する形とは異なり、経営権を渡さずに資金を調達することも可能です。
これは、事業の成長スピードを加速させたい場合に強力な武器となります。
3. 事業承継がスムーズ
代表者の高齢化や引退など、将来的に事業を誰かに引き継ぐ「事業承継」を考える際、株式会社は非常にスムーズな手続きが可能です。
会社の所有権は株式に紐づいているため、株式を後継者に譲渡(売買、贈与、相続)するだけで、会社の経営権を移転できます。
合同会社のように、定款変更や全社員の同意といった複雑な手続きが不要な点は、長期的な視点でのメリットと言えるでしょう。
株式会社のデメリット
高い信用力と引き換えに、株式会社には設立・運営の両面でコストと手間がかかるというデメリットがあります。
マイクロ法人としてミニマムに事業を始めたい方にとっては、この負担が選択をためらわせる要因となるかもしれません。
1. 設立費用が合同会社より高い
株式会社の設立には、合同会社にはない費用が発生するため、初期コストが高くなります。
具体的には、以下の費用が上乗せされます。
- 定款の認証手数料:公証役場で定款の認証を受ける必要があり、手数料として3万円~5万円かかります。(電子定款の場合は不要ですが、別途設備が必要です)
- 登録免許税:法務局で設立登記を行う際の税金です。株式会社は最低15万円ですが、合同会社は最低6万円です。
これらの費用により、合同会社と比較して、株式会社の設立には約10万円~12万円多くの初期費用が必要になります。
事業開始時の資金が潤沢でないマイクロ法人にとって、この差は決して小さくありません。
2. 運営コストと手間がかかる
設立後も、株式会社特有の義務があり、運営コストと手間が増加します。
| 項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 決算公告の義務 | 毎事業年度終了後、定時株主総会の終結後に貸借対照表などを公告(公開)する義務があります。 | 最も安価な官報での掲載でも、年間約7万円程度の費用が発生します。 |
| 役員の任期と変更登記 | 取締役の任期は最長10年です。任期が満了するたびに、たとえ同じ人が再任(重任)する場合でも、法務局で役員変更の登記手続きが必要です。 | 登記には登録免許税(1万円)と、司法書士に依頼する場合は別途報酬がかかります。 |
特に決算公告と役員変更登記は、合同会社にはない義務です。
これらの手続きを怠ると過料(罰金)の対象となる可能性もあるため、管理の手間とコストが継続的に発生する点は大きなデメリットです。
3. 利益の分配が配当に限られる
株式会社では、会社に生じた利益を出資者(株主)に分配する方法は、原則として「配当」に限られます。
そして、配当額は出資額(持株比率)に応じて決まります。
たとえ特定の株主が事業に大きく貢献したとしても、その貢献度に応じて利益を柔軟に分配することはできません。
マイクロ法人の場合、多くは「株主=経営者」であるため、役員報酬で調整することができ、このデメリットが問題になることは稀です。
しかし、複数の株主が存在し、出資比率と会社への貢献度が異なる場合には、不公平感を生む可能性があることを覚えておく必要があります。
マイクロ法人で合同会社を選ぶメリット・デメリット

マイクロ法人を設立する際、株式会社と並んで有力な選択肢となるのが合同会社です。
特に、設立・運営コストを抑えたい個人事業主やフリーランスの方にとって、合同会社は非常に魅力的な形態と言えるでしょう。
ここでは、マイクロ法人として合同会社を選ぶことの具体的なメリットと、注意すべきデメリットを詳しく解説します。
ご自身の事業計画や将来の展望と照らし合わせながら、最適な選択をするための判断材料としてください。
合同会社のメリット
合同会社には、株式会社にはない手軽さや柔軟性といった多くのメリットが存在します。
特にコスト面と運営の自由度は、マイクロ法人にとって大きな魅力となるでしょう。
設立費用が圧倒的に安い
合同会社の最大のメリットは、株式会社に比べて設立費用を大幅に抑えられる点です。
具体的には、以下の2つの費用がかかりません。
- 定款の認証手数料:不要(株式会社の場合は約3〜5万円)
- 登録免許税:最低6万円(株式会社の場合は最低15万円)
これにより、株式会社の設立には最低でも約20万円以上かかるのに対し、合同会社は電子定款を利用すれば6万円程度で設立が可能です。
初期投資をできるだけ少なくしたいマイクロ法人にとって、この差は非常に大きいと言えます。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 定款用収入印紙代 | 0円 | 0円 |
| 定款認証手数料 | 約3万円~5万円 | 0円 |
| 登録免許税 | 資本金の0.7%(最低15万円) | 資本金の0.7%(最低6万円) |
| 合計 | 約18万円~ | 約6万円~ |
運営コストを低く抑えられる
設立費用だけでなく、設立後のランニングコストを抑えられる点も合同会社の強みです。
- 役員任期の定めがない:株式会社では役員の任期が最長10年と定められており、任期満了ごとに役員変更登記(最低1万円の登録免許税+司法書士報酬)が必要です。一方、合同会社には役員任期の概念がないため、役員が同じである限り変更登記の手間と費用が発生しません。
- 決算公告の義務がない:株式会社は毎年の決算を官報や日刊新聞紙、ウェブサイトなどで公告する義務があり、これには数万円の費用がかかります。合同会社にはこの決算公告の義務がないため、その分のコストと手間を削減できます。
経営の自由度が高い(利益分配・意思決定)
合同会社は「人的会社」とも呼ばれ、出資者(社員)同士の信頼関係を基礎としています。
そのため、定款で定めることにより、経営に関するルールを柔軟に設計できます。
特に大きなメリットが、利益分配の自由度が高いことです。
株式会社では出資額(株式の保有比率)に応じて配当が行われますが、合同会社では出資額に関わらず、技術力や営業力といった貢献度に応じて利益を分配することが可能です。
例えば、出資額は少なくても事業の中心となって働く社員に多くの利益を分配するといった柔軟な対応ができます。
設立手続きが比較的簡単
株式会社設立の際に必要な「公証役場での定款認証」という手続きが、合同会社では不要です。
これにより、手続きのステップが一つ減り、専門家に依頼せずに自分自身で設立手続きを進める際のハードルが低くなります。
設立にかかる時間も短縮できるため、スピーディーに事業を開始したい場合に適しています。
合同会社のデメリット
多くのメリットがある一方で、合同会社には株式会社と比べた場合のデメリットも存在します。
特に、事業の拡大や外部からの資金調達を視野に入れている場合は、慎重な検討が必要です。
社会的信用度・知名度が株式会社に劣る
合同会社という形態は2006年の会社法改正で導入された比較的新しい制度であり、株式会社に比べると一般の知名度や社会的信用度が低いのが現状です。
特にBtoCビジネスや、伝統的な業界の大企業と取引を行う際に、「合同会社」という名称が相手に与える印象で不利になる可能性 があります。
また、金融機関からの融資審査や、優秀な人材を採用する際の求人活動においても、株式会社の方が有利に働くケースがあります。
資金調達の方法が限定される
マイクロ法人の段階では大きな問題になりにくいですが、将来的に事業を拡大していく上で大きな制約となる可能性があります。
株式会社は「株式」を発行することで、投資家など外部から広く資金を調達できますが、合同会社にはこの仕組みがありません。
合同会社の資金調達は、基本的に以下の方法に限られます。
- 金融機関からの融資(借入)
- 既存の社員からの追加出資
- 業務執行権を持つ新たな社員の加入
このように、ベンチャーキャピタルからの出資や株式上場(IPO)といった大規模な資金調達はできないため、将来的に大きな成長を目指す事業モデルには不向きと言えます。
意思決定で対立が起こる可能性がある
メリットである「自由度の高さ」は、裏を返せばデメリットにもなり得ます。
合同会社の意思決定は、原則として出資者(社員)全員の同意が必要です。
社員が複数いる場合、意見が対立すると経営に関する重要な決定ができなくなり、事業が停滞してしまうリスクがあります。
株式会社であれば、株式の過半数を保有することで経営の主導権を握ることができますが、合同会社では出資額の多寡にかかわらず、原則として各社員が1つの議決権を持つため、対立が深刻化しやすい構造になっています。
持分の譲渡や事業承継が複雑
社員が自分の地位(持分)を第三者に譲渡する場合、株式会社の株式譲渡のように簡単にはいきません。
原則として、他の社員全員の同意が必要となり、手続きが煩雑です。
これにより、M&A(会社の売却)などを検討する際のハードルが高くなります。
また、社員が死亡した場合の事業承継も複雑です。定款に特別な定めがない限り、相続人は社員の地位を引き継ぐことができず、出資した持分の払戻しを請求する権利しか得られません。
円滑な事業承継を考えるのであれば、あらかじめ定款に相続に関する規定を盛り込んでおく必要があります。
【結論】マイクロ法人は株式会社と合同会社どちらがおすすめ?

ここまで、マイクロ法人を設立する際の株式会社と合同会社の違いを、設立費用、税金、社会的信用度、運営コストなど様々な角度から比較してきました。
それぞれの法人形態にメリット・デメリットがあり、「どちらが絶対的に優れている」という答えはありません。
最も重要なのは、あなたがマイクロ法人を設立する目的と、将来の事業ビジョンに合っているかという点です。
この章では、これまでの比較内容を踏まえ、あなたがどちらの形態を選ぶべきか判断するための最終的な指針を示します。
株式会社での設立がおすすめな人
初期費用や運営の手間が合同会社よりかかったとしても、それ以上のメリットを享受できると判断するなら株式会社がおすすめです。
具体的には、以下のような方が当てはまります。
- 将来的な事業拡大や従業員の雇用を視野に入れている人
- 社会的信用度を重視し、法人名でビジネスを有利に進めたい人
- 金融機関からの融資や、外部からの出資による資金調達を考えている人
- BtoB(法人向け)の取引がメインで、取引先からの見え方を意識したい人
- 「代表取締役」という肩書で活動したい人
株式会社の最大の強みは、その圧倒的な社会的信用度です。
法人設立を検討する多くの人がイメージする「会社」の形であり、取引先や金融機関に安心感を与えやすい傾向があります。
将来的に事業を大きくしていきたい、多額の資金調達が必要になる可能性があるという方は、将来の選択肢を広げるためにも株式会社を選んでおくと良いでしょう。
マイクロ法人としてスタートし、事業が軌道に乗ってから合同会社から株式会社へ組織変更することも可能ですが、手間とコストがかかります。
初めから拡大のビジョンがある場合は、株式会社での設立が合理的な選択と言えます。
合同会社での設立がおすすめな人
一方で、事業拡大よりもコストや手間の削減を最優先したい方には、合同会社が非常に魅力的な選択肢となります。
具体的には、以下のような方におすすめです。
- とにかく設立費用と運営コストを安く抑えたい人
- 社会保険料の最適化など、節税を主な目的として法人を設立する人
- 役員変更登記や決算公告などの手間をできるだけ省きたい人
- 個人事業主の延長線上や、プライベートカンパニーとして法人化したい人
- 外部からの資金調達は考えておらず、自己資金の範囲で事業を行う人
合同会社のメリットは、何と言っても設立・維持コストの低さと運営の自由度の高さにあります。
定款認証が不要で登録免許税も安いため、株式会社の半分以下の費用で設立が可能です。
また、役員の任期がないため定期的な変更登記が不要で、決算公告の義務もありません。
マイクロ法人の目的が「個人の所得と法人所得を分散し、社会保険料を最適化すること」であるならば、合同会社のシンプルさは大きなメリットとなるでしょう。
BtoC(個人向け)のビジネスや、特定の取引先との関係性がすでに構築されているフリーランスの方が法人化するケースでは、合同会社でも信用面で不利になることはほとんどありません。
まずはスモールスタートを切りたいという方に最適な形態です。
| 重視するポイント | 株式会社がおすすめ | 合同会社がおすすめ |
|---|---|---|
| 社会的信用度・知名度 | ◎:非常に高い | △:株式会社に劣る |
| 設立費用 | △:約20万円~ | ◎:約6万円~ |
| 運営コスト・手間 | △:役員変更登記、決算公告が必要 | ◎:原則不要で手間が少ない |
| 資金調達(出資) | ◎:株式発行により可能 | △:社員の同意が必要で限定的 |
| 事業拡大の将来性 | ◎:上場も視野に入れられる | △:大規模な拡大には不向き |
| 意思決定・利益分配 | △:株主総会など原則に沿う | ◎:定款で自由に設計可能 |
最終的に、あなたのビジネスプランやライフプランを総合的に考慮して、最適な法人形態を選択してください。
もし迷う場合は、設立費用はかかりますが、将来の可能性を狭めない株式会社を選ぶという考え方もあります。
一方で、マイクロ法人のメリットを最大限に享受したいのであれば、合同会社の手軽さとコストパフォーマンスは非常に魅力的です。
ご自身の状況をこの表に当てはめて、後悔のない選択をしましょう。
まとめ
本記事では、マイクロ法人を設立するにあたり、株式会社と合同会社のどちらを選ぶべきか、設立費用、税金・社会保険料、社会的信用度、運営コストの観点から徹底比較しました。
結論として、どちらの法人形態が最適かは、事業の将来的なビジョンや個人の状況によって異なります。
株式会社は、設立費用や決算公告などの運営コストは合同会社より高くなりますが、社会的信用度が高く、資金調達の面で有利です。
将来的に事業を拡大したい、外部から出資を受けたい、BtoB取引で信用を重視したい方におすすめです。
一方、合同会社は、設立費用を安く抑えられ、役員の任期がないなど運営の自由度が高い点が最大のメリットです。
まずはコストを抑えて法人化し、社会保険料の負担軽減といった節税メリットを享受したい個人事業主やフリーランスの方に適しています。
それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、ご自身の事業計画に最も合った法人形態を選択することが、マイクロ法人成功の鍵となります。
